【基礎 物理(電磁気学)】Module 3:コンデンサー

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本モジュールの目的と構成

これまでのモジュールで、私たちは静電気の世界を支配する fundamental な法則、「電場」と「電位」という二つの強力な概念を学びました。それらは、自然現象を記述するための普遍的な言語でした。本モジュールでは、その言語を用いて、現代の電子技術に不可欠な具体的な電子部品、「コンデンサー (capacitor)」を解き明かしていきます。これは、静電気学の理論が、どのようにして現実世界で応用され、価値を生み出すのかを探求する、理論と実践の架け橋となる章です。

コンデンサーの本質的な役割は、電荷を蓄え、それによって「静電エネルギー」を貯蔵することにあります。それはまるで、川の水を堰き止めて巨大なダムに水を蓄える行為に似ています。ダムが位置エネルギーの形で水を蓄え、必要な時に放流して水力発電を行うように、コンデンサーは静電エネルギーを蓄え、電子回路の中で様々な形でそのエネルギーを供給・調整します。このモジュールでは、この「電荷のダム」がどのような構造を持ち、その性能(ダムの大きさ)は何によって決まるのか、そして、複数のダムをどのようにつなげば効率的なのかを、物理法則に基づいて一つ一つ論理的に解き明かしていきます。

学習は、コンデンサーの基本的な役割の理解から始まり、その性能を定量化し、さらにはその性能を最大化するための工夫に至るまで、以下のステップで進められます。

  1. コンデンサーの基本構造と役割: まず、なぜ「2枚の向かい合った導体」という構造が電荷を蓄える上で重要なのか、その物理的なメカニズムを静電誘導の観点から理解します。そして、この単純な部品が電子回路で果たす多様な役割に触れます。
  2. 静電容量(キャパシタンス)の定義: コンデンサーの「電荷を蓄える能力」を定量的に表す指標である「静電容量(キャパシタンス)」を定義します。これは、コンデンサーの性能を特徴づける最も重要なパラメータです。
  3. 平行平板コンデンサーの容量の導出: 最も基本的で理想的なモデルである平行平板コンデンサーを取り上げ、その静電容量が幾何学的な形状(極板の面積と間隔)によってどのように決まるかを、電場と電位の基本法則から導出します。
  4. コンデンサーの直列接続と並列接続: 複数のコンデンサーを組み合わせる際の、基本的な2つの接続方法を学びます。それぞれの接続方法が、なぜ、そしてどのように全体の性能を変化させるのかを理解します。
  5. 合成容量の計算: 直列・並列に接続されたコンデンサー群を、あたかも一つのコンデンサーであるかのように見なしたときの全体の静電容量(合成容量)を計算する方法を学びます。
  6. コンデンサーに蓄えられる静電エネルギー: コンデンサーの最も重要な機能であるエネルギーの貯蔵について、蓄えられるエネルギー量がどのように計算されるかを、仕事とエネルギーの関係から導出します。
  7. 極板間引力の計算: 電荷を蓄えたコンデンサーの極板同士が、互いに引き合う力の大きさを計算します。これは、エネルギーの観点からも、電場の観点からも導出することができ、物理法則の多面的な理解を深めます。
  8. 誘電体の挿入と誘電率: コンデンサーの極板間に絶縁物(誘電体)を挿入することで、その性能を劇的に向上させられることを学びます。そのメカニズムを誘電分極の概念から理解し、物質の電気的性質を表す「誘電率」を導入します。
  9. 誘電体を挿入したコンデンサーの容量: 誘電体を挿入した場合の静電容量の変化を定量的に計算し、その絶大な効果を実感します。
  10. コンデンサーを含む回路の過渡現象(定性的理解): 最後に、コンデンサーが抵抗など他の部品と共に回路に組み込まれたとき、時間的にどのように振る舞うのか、その定性的な性質を学びます。これは、より実践的な回路解析への第一歩となります。

このモジュールを学ぶことで、あなたはコンデンサーという一つの電子部品の背後にある、豊かで美しい物理法則の体系を理解することができます。そして、公式を暗記するのではなく、その意味を問い、導出のプロセスをたどることで、未知の問題にも対応できる真の応用力を身につけることができるでしょう。

目次

1. コンデンサーの基本構造と役割

電子回路の図記号において、二本の平行線で表される部品、それがコンデンサーです。このシンプルな記号は、コンデンサーの最も本質的な構造、すなわち「2枚の導体を互いに向かい合わせて配置したもの」を的確に表現しています。この2枚の導体は「極板 (plates)」と呼ばれ、通常は直接接触しないように、その間には真空、空気、あるいは絶縁体(誘電体)が挟まれています。

なぜ、このような単純な構造が、電子回路において極めて重要な役割を果たすのでしょうか?このセクションでは、コンデンサーの基本構造がなぜ電荷を効率的に蓄えることができるのか、その物理的な原理を探り、さらに現代のテクノロジーにおけるその多様な役割について概観します。

1.1. コンデンサーの基本構造

コンデンサーの形状は様々です。最も基本的な平行平板コンデンサーをはじめ、同心円筒状の導体を組み合わせた円筒コンデンサー、同心球状の導体を組み合わせた球コンデンサーなどがあります。しかし、どのような形状であっても、「互いに絶縁された2つの導体」という基本構造は共通しています。

実際の電子部品としては、限られたスペースに大きな性能を詰め込むため、金属箔と絶縁体のフィルムを重ねて巻き寿司のように巻いた構造(フィルムコンデンサー)や、特殊なセラミック材料を用いた小型で高性能なもの(セラミックコンデンサー)、電解液を用いて極めて大きな容量を実現したもの(電解コンデンサー)など、様々な工夫が凝らされています。しかし、これらの複雑に見える部品も、ミクロな視点で見れば、広大な面積を持つ2つの導体が近接して向かい合っている、という基本構造に帰着します。

1.2. なぜ電荷を蓄えられるのか? ― 静電誘導の巧妙な利用

コンデンサーが電荷を蓄える原理は、Module 1で学んだ「静電誘導」の巧妙な応用に他なりません。そのプロセスを、平行平板コンデンサーを例に考えてみましょう。

  1. Step 1: 電池との接続
    • 2枚の極板AとBを持つコンデンサーを、電池に接続します。極板Aを電池の正極に、極板Bを負極につなぎます。
  2. Step 2: 電荷の移動
    • 電池は、化学的なエネルギーを使って、回路内に電位差(電圧)を生み出す装置です。
    • 正極に接続された極板Aからは、電池の力によって自由電子が引き抜かれ、正極へと移動します。電子を失った極板Aは、結果として正に帯電します。
    • 一方、負極に接続された極板Bには、電池から自由電子が供給されます。電子を過剰に受け取った極板Bは、負に帯電します。
  3. Step 3: 静電誘導による電荷の引き寄せ
    • ここで、コンデンサーの構造が決定的な役割を果たします。
    • 正に帯電した極板Aは、向かいにある極板Bの電子(負電荷)に対して強い引力を及ぼします。この引力によって、極板Bにはより多くの電子が引き寄せられ、蓄えられます。
    • 同様に、負に帯電した極板Bは、向かいにある極板Aの正電荷(電子が去った後の原子核イオン)に対して強い引力を及ぼします。この引力が、極板Aからさらに多くの電子を引き抜くのを助けます。
  4. Step 4: 充電の完了
    • この電荷の移動(充電)は、極板間の電位差が、接続された電池の電圧と等しくなるまで続きます。この状態になると、電荷の移動は止まり、コンデンサーは電荷を蓄えた状態(充電完了状態)になります。

【もし極板が1枚だけだったら?】

もし、導体が1枚だけの場合、それに電荷を蓄えようとしても、既に存在する同符号の電荷からの斥力により、多くの電荷を蓄えることは困難です。しかし、コンデンサーのように、すぐ近くに逆符号の電荷を帯びたもう一枚の導体を置くことで、互いの電荷からの引力が、同符号の電荷からの斥力を打ち消すように働きます。これにより、単独の導体の場合とは比べ物にならないほど、大量の電荷を低い電圧で蓄えることが可能になるのです。これが、コンデンサーが電荷を蓄えるための本質的なメカニズムです。

【重要な注意点:コンデンサー全体としての電荷】

コンデンサーは「電荷を蓄える」と表現されますが、これは極板Aに \(+Q\)、極板Bに \(-Q\) の電荷が分離して蓄えられている状態を指します。コンデンサー全体として見れば、その総電荷は \((+Q) + (-Q) = 0\) であり、電気的に中性です。コンデンサーの「蓄えられた電荷」と言うとき、それは通常、どちらか一方の極板が持つ電荷の絶対値 \(Q\) を指します。

1.3. コンデンサーの多様な役割

この「電荷を蓄える」という基本機能は、電子回路の中で実に多様な役割を果たします。

  • 電荷・エネルギーの貯蔵(一時的な電池):カメラのフラッシュ(ストロボ)が良い例です。電池からゆっくりとエネルギーをコンデンサーに蓄え、シャッターが押された瞬間に、蓄えたエネルギーを一気に放出することで、強力な光を発生させます。これは、コンデンサーが短時間で大電流を供給できる能力を持つことを示しています。
  • 電圧の安定化(平滑回路):交流を直流に変換する電源回路では、電圧に細かな波(リップル)が含まれています。コンデンサーを回路に並列に接続すると、電圧が高いときには余分な電荷を蓄え、電圧が低いときには蓄えた電荷を放出することで、この波をなだらかにし、電圧を安定させる働きをします。これは、川の流れをダムが安定させるのと同じ原理です。
  • ノイズの除去:電子回路は、外部からの電磁波や内部で発生する高周波の電気信号など、様々な「ノイズ」の影響を受けます。コンデンサーは、このような高周波のノイズ信号を選択的に通してアース(地面)に逃がすバイパスとして機能し、回路の安定動作を守ります。
  • カップリング(直流カット):コンデンサーは、定常的な直流電流を流すことはできません(極板間が絶縁されているため)。しかし、電圧が時間的に変化する交流信号は、充電と放電を繰り返すことで、あたかも通過させるかのように振る舞います。この性質を利用して、増幅回路などで、直流電圧に影響を与えずに交流信号成分だけを次の段に伝える「カップリング」という用途で使われます。

これらの応用例の根底には、すべて「電荷を蓄え、放出する」というコンデンサーの基本原理があります。次のセクションからは、この能力を定量的に評価するための指標、「静電容量」について学んでいきます。

2. 静電容量(キャパシタンス)の定義

コンデンサーが電荷を蓄える装置であることは分かりました。では、その「性能」、すなわち「どれだけ多くの電荷を蓄えることができるか」という能力は、どのように表せばよいのでしょうか。蛇口をひねってバケツに水を溜めるアナロジーで考えてみましょう。同じ時間だけ蛇口をひねっても(同じ水圧をかけても)、大きなバケツと小さなバケツでは、溜まる水の量が異なります。この「バケツの大きさ」に相当する、コンデンサーの性能指標が「静電容量 (capacitance)」です。

このセクションでは、静電容量の物理的な定義を明確にし、その単位や意味について深く理解します。静電容量は、個々のコンデンサーの特性を決定づける最も重要なパラメータです。

2.1. 電荷と電位差の比例関係

コンデンサーに電荷を蓄えていくプロセスを考えると、蓄えられた電荷 \(Q\) が増えるほど、極板間に生じる電場も強くなります。そして、電場が強くなるほど、極板間の電位差(電圧) \(V\) も大きくなります(一様な電場なら \(V=Ed\))。このことから、コンデンサーに蓄えられる電荷の量 \(Q\) と、その結果として生じる極板間の電位差 \(V\) の間には、比例関係があることがわかります。

\[ Q \propto V \]

この関係は、実験的にも確かめられています。つまり、電圧を2倍にすれば、蓄えられる電荷も2倍になる、というシンプルな関係です。

2.2. 静電容量の定義式

この比例関係を等式で結びつけるための比例定数を \(C\) と書き、これを静電容量 (capacitance) と呼びます。

\[ Q = CV \]

これが、静電容量を定義する、コンデンサーの議論における最も基本的で重要な式です。この式を \(C\) について解くと、

\[ C = \frac{Q}{V} \]

となります。この式から、静電容量の物理的な意味を言葉で表現することができます。

静電容量 (Capacitance) とは、コンデンサーに 1V の電位差を与えたときに、蓄えることができる電荷の量のことである。

あるいは、単位電位差あたりの電荷の蓄積能力と言い換えることもできます。

  • 静電容量 \(C\) が大きいコンデンサーほど、同じ電圧をかけても、より多くの電荷 \(Q\) を蓄えることができます(大きなバケツ)。
  • 逆に、同じ量の電荷 \(Q\) を蓄えた場合、静電容量 \(C\) が大きいコンデンサーほど、極板間の電圧 \(V\) は低くて済みます。

2.3. 静電容量の単位:ファラド (F)

静電容量 \(C\) の単位には、電磁気学の発展に多大な貢献をしたマイケル・ファラデーにちなんで、「ファラド (Farad)」が用いられ、記号 F で表されます。

定義式 \(C=Q/V\) から、単位の関係は以下のようになります。

\[ 1 , F = 1 , C/V \quad (1 , \text{ファラド} = 1 , \text{クーロン毎ボルト}) \]

1ファラドは、1Vの電圧をかけたときに1Cの電荷を蓄えることができる静電容量を意味します。しかし、1クーロンは非常に大きな電荷量であるため、1ファラドもまた、実用上は極めて大きな静電容量です。電子回路で通常用いられるコンデンサーの静電容量は、もっと小さな単位で表されることがほとんどです。

  • マイクロファラド (μF): \(1 \mu F = 10^{-6} F\)
  • ナノファラド (nF): \(1 nF = 10^{-9} F\)
  • ピコファラド (pF): \(1 pF = 10^{-12} F\)

これらの補助単位に慣れておくことは、実践的な問題を解く上で重要です。

2.4. 静電容量は何で決まるのか?

定義式 \(C = Q/V\) を見ると、静電容量は電荷 \(Q\) や電圧 \(V\) によって決まるかのように見えるかもしれません。しかし、これは誤解です。

前述の通り、\(Q\) と \(V\) は比例関係にあります。電圧 \(V\) を2倍にすれば、蓄えられる電荷 \(Q\) も2倍になるため、その比である \(C = Q/V\) の値は変化しません

これは、バケツのアナロジーで考えれば明らかです。バケツに注ぐ水の量(電荷 \(Q\))を2倍にすれば、水位(電圧 \(V\))も2倍になりますが、「バケツの大きさ(容量 \(C\))」自体は変わらないのと同じです。

では、静電容量 \(C\) は一体何によって決まるのでしょうか?

結論を先に述べると、コンデンサーの静電容量は、そのコンデンサーの幾何学的な形状(極板の面積、極板間の距離など)と、極板間を満たしている物質の種類(真空なのか、空気なのか、あるいは他の絶縁体なのか)だけで決まります。

つまり、静電容量は、そのコンデンサーが「作られた」時点で決まっている、固有の性能値なのです。次のセクションでは、このことを最も基本的な平行平板コンデンサーを例にとって、具体的に導出していきます。この導出は、電場と電位の法則が、どのようにして具体的な部品の性能を決定づけるのかを示す、美しい一例となるでしょう。

3. 平行平板コンデンサーの容量の導出

静電容量 \(C\) が、コンデンサーの幾何学的形状と、極板間を満たす物質の性質だけで決まる、という重要な結論。このことを、最も構造がシンプルで、大学受験物理でも頻繁に登場する「平行平板コンデンサー」をモデルとして、数学的に証明してみましょう。

この導出プロセスは、単に結果の公式を覚える以上に重要です。なぜなら、ここにはModule 1とModule 2で学んだ電場と電位に関する基本法則(ガウスの法則、\(V=Ed\)、\(Q=CV\))が、一つの目的(容量の導出)のために有機的に結びつけられているからです。この論理の流れを理解することは、静電気学の体系的な理解を深める上で不可欠です。

3.1. 状況設定と導出の戦略

【状況設定】

  • 構造: 真空中に、面積 \(S\) の2枚の極板が、距離 \(d\) だけ離れて平行に向かい合っている、平行平板コンデンサーを考えます。
  • 仮定: 極板の面積 \(S\) は、極板間の距離 \(d\) に比べて十分に大きいとします。これにより、極板の端(エッジ)の部分で電場が乱れる効果(端効果)を無視でき、極板間には一様な電場が形成されていると見なすことができます。
  • 充電: このコンデンサーに、電荷 \(+Q\) と \(-Q\) をそれぞれ与えます(電池につないで充電した状態を想定)。正の極板の電荷密度を \(+\sigma\)、負の極板の電荷密度を \(-\sigma\) とすると、\(\sigma = Q/S\) となります。

【導出の戦略(ロードマップ)】

私たちの最終目標は、このコンデンサーの静電容量 \(C\) を、与えられたパラメータ \(S\)(面積)、\(d\)(間隔)、そして真空の誘電率 \(\epsilon_0\) を用いて表すことです。

そのためのロードマップは、静電容量の定義式 \(C=Q/V\) から逆算して考えます。

  1. Goal: \(C\) を求めたい。
  2. How?: 定義式 \(C=Q/V\) を使う。そのためには、電荷 \(Q\) と電位差 \(V\) の関係を調べる必要がある。
  3. How to find \(V\)?: 極板間の電位差 \(V\) は、一様な電場 \(E\) と距離 \(d\) を用いて \(V=Ed\) と表せる。そのためには、電場 \(E\) を求める必要がある。
  4. How to find \(E\)?: 極板間にできる一様な電場 \(E\) は、電荷 \(Q\)(または電荷密度 \(\sigma\))から計算できる。ガウスの法則を用いるのが最も本質的である。

したがって、導出のステップは、この逆をたどることになります。

Step 1: 電場 \(E\) を \(Q\) で表す。

Step 2: 電位差 \(V\) を \(E\) を用いて表し、結果として \(V\) を \(Q\) で表す。

Step 3: \(C=Q/V\) に代入し、最終的な \(C\) の式を導出する。

3.2. Step 1: 極板間の電場 E を求める

無限に広い荷電した平板が1枚だけある場合、その片側につくる電場の大きさは、ガウスの法則から \(E = \sigma / (2\epsilon_0)\) となることを思い出しましょう。

平行平板コンデンサーでは、正に帯電した極板と、負に帯電した極板が2枚あります。極板間の領域では、

  • 正の極板が作る電場:大きさ \(\sigma / (2\epsilon_0)\) で、正の極板から離れる向き。
  • 負の極板が作る電場:大きさ \(\sigma / (2\epsilon_0)\) で、負の極板に近づく向き。

この2つの電場は、極板間では同じ向きを向いています。したがって、重ね合わせの原理により、合成電場 \(E\) の大きさは、

\[ E = \frac{\sigma}{2\epsilon_0} + \frac{\sigma}{2\epsilon_0} = \frac{\sigma}{\epsilon_0} \]

となります。ここで、電荷密度 \(\sigma\) は、極板上の総電荷 \(Q\) を面積 \(S\) で割ったものなので、\(\sigma = Q/S\) です。これを代入すると、

\[ E = \frac{Q}{\epsilon_0 S} \]

これで、電場 \(E\) を電荷 \(Q\) とコンデンサーの幾何学的パラメータ(\(S\))で表すことができました。

3.3. Step 2: 極板間の電位差 V を求める

極板間の電場 \(E\) は一様であると見なせるので、電位差 \(V\) は、電場の大きさと距離 \(d\) の単純な積で与えられます。

\[ V = Ed \]

この式に、Step 1で求めた \(E\) の表現を代入します。

\[ V = \left( \frac{Q}{\epsilon_0 S} \right) d = \frac{d}{\epsilon_0 S} Q \]

これで、電位差 \(V\) を、電荷 \(Q\) と幾何学的パラメータ(\(S, d\))で表すことができました。この式は、\(V\) が \(Q\) に比例していることを明確に示しています。

3.4. Step 3: 静電容量 C の導出

いよいよ最終ステップです。静電容量 \(C\) の定義式 \(Q=CV\) に、Step 2で得られた関係式を適用します。

\(Q = CV\) を \(C\) について解くと、\(C=Q/V\) です。ここに、\(V = \frac{d}{\epsilon_0 S} Q\) を代入します。

\[ C = \frac{Q}{V} = \frac{Q}{\frac{d}{\epsilon_0 S} Q} \]

分子と分母の \(Q\) を約分すると、

\[ C = \frac{\epsilon_0 S}{d} \]

という、非常にシンプルで美しい結果が得られます。

【結論と考察】

これが、真空中に置かれた平行平板コンデンサーの静電容量の公式です。この式が示す物理的な意味は、極めて重要です。

  • \(C\) は面積 \(S\) に比例する: 極板の面積が広いほど、より多くの電荷を蓄えることができる。これは直感的にも理解しやすいでしょう。
  • \(C\) は間隔 \(d\) に反比例する: 極板間の距離が近いほど、静電誘導の効果が強く働き、互いの電荷をより強く引きつけ合うため、より多くの電荷を蓄えることができる。
  • \(C\) は電荷 \(Q\) や電圧 \(V\) に依存しない: 公式のどこにも \(Q\) や \(V\) は現れません。静電容量は、コンデンサーの形状(\(S, d\))と、極板間の物質の性質(ここでは真空の誘電率 \(\epsilon_0\))だけで決まる、固有の定数であることが数学的に証明されました。

この導出プロセスは、静電気学の法則がいかに論理的に組み合わさり、具体的なデバイスの性能を予言するかを示す好例です。個々の公式を暗記するだけでなく、この導出のストーリーを自分自身で再現できるようになることが、深い理解への鍵となります。

4. コンデンサーの直列接続と並列接続

電子回路では、単一のコンデンサーだけでなく、複数のコンデンサーを組み合わせて使用することが頻繁にあります。その組み合わせ方の基本となるのが、「直列接続 (series connection)」と「並列接続 (parallel connection)」です。

なぜ、わざわざコンデンサーを複数接続する必要があるのでしょうか?それは、手持ちのコンデンサーの性能(静電容量や耐電圧)では目的を達成できない場合に、接続方法を工夫することで、実質的に異なる性能を持つ一つのコンデンサーとして機能させることができるからです。

このセクションでは、直列接続と並列接続がそれぞれどのような特徴を持ち、どのような目的で使われるのかを理解します。これは、次のセクションで学ぶ「合成容量」の計算の土台となります。

4.1. 並列接続 (Parallel Connection)

【接続方法】

並列接続とは、複数のコンデンサー(ここでは \(C_1, C_2\) とする)の一方の極板同士、もう一方の極板同士を、それぞれ共通の導線で接続する方法です。回路図では、複数のコンデンサーが横に並んで、同じ2本の導線に接続されているように描かれます。

【物理的な特徴】

並列接続には、以下の2つの極めて重要な特徴があります。

  1. 各コンデンサーにかかる電圧(電位差)は等しい:
    • \(C_1\) の両端も、\(C_2\) の両端も、同じ電源(または同じ2点)に接続されています。
    • 導線上の電位は(理想的には)どこでも等しいので、\(C_1\) の極板間の電位差と、\(C_2\) の極板間の電位差は、電源の電圧 \(V\) に等しくなります。\[ V_1 = V_2 = V \]
  2. 全体の電荷は、各コンデンサーの電荷の和になる:
    • 電源から流れ出た総電荷 \(Q\) は、分岐点で分かれて、一部が \(C_1\) に(\(Q_1\))、残りが \(C_2\) に(\(Q_2\))蓄えられます。
    • 電荷保存則から、全体の電荷は、それぞれのコンデンサーに蓄えられた電荷の和となります。\[ Q = Q_1 + Q_2 \]

【目的とアナロジー】

並列接続の目的は、主に静電容量を増やすことです。

これは、極板の面積を増やす効果と等価であると考えることができます。複数のコンデンサーを並列につなぐことは、それぞれの極板を合体させて、より大きな面積を持つ一つのコンデンサーを作るようなイメージです。面積 \(S\) が大きくなれば、容量 \(C = \epsilon_0 S / d\) も大きくなります。

バケツのアナロジーで言えば、複数のバケツを横に並べて同時に水(電荷)を注ぐようなものです。全体の「器の大きさ(容量)」は、個々のバケツの大きさの合計になります。

4.2. 直列接続 (Series Connection)

【接続方法】

直列接続とは、複数のコンデンサー(\(C_1, C_2\))を、数珠つなぎのように一列に接続する方法です。回路図では、コンデンサーが縦または横に一列に並んで接続されているように描かれます。

【物理的な特徴】

直列接続の特徴は、並列接続とは対照的です。

  1. 各コンデンサーに蓄えられる電荷は等しい:
    • まず、電源に接続された外側の極板(例えば、\(C_1\) の左側と \(C_2\) の右側)に、それぞれ \(+Q\) と \(-Q\) の電荷が蓄えられます。
    • ここで重要なのは、中間の、互いに接続された部分(\(C_1\) の右側極板と \(C_2\) の左側極板)です。この部分は、回路の他の部分から電気的に孤立しています。
    • \(C_1\) の左側が \(+Q\) に帯電すると、静電誘導により、その向かい側である \(C_1\) の右側極板には \(-Q\) の電荷が誘導されます。
    • 孤立した部分全体の電荷はゼロでなければならないので(電荷保存則)、\(C_1\) の右側が \(-Q\) になれば、必然的に \(C_2\) の左側極板には \(+Q\) の電荷が現れなければなりません。
    • その結果、全てのコンデンサーに蓄えられる電荷の大きさは、等しく \(Q\) となります。\[ Q_1 = Q_2 = Q \]
  2. 全体の電圧は、各コンデンサーの電圧の和になる:
    • 全体の電圧 \(V\) は、\(C_1\) にかかる電圧 \(V_1\) と、\(C_2\) にかかる電圧 \(V_2\) の合計になります。
    • これは、電位が「電気的な高さ」であることを考えれば当然です。全体の高低差は、個々の部分の高低差の和に等しくなります。\[ V = V_1 + V_2 \]

【目的とアナロジー】

直列接続の主な目的の一つは、耐電圧を高めることです。例えば、耐電圧が100Vのコンデンサーが2つある場合、これらを直列に接続すると、全体として(理論的には)200Vの電圧に耐えることができます。全体の電圧が、各コンデンサーに分散してかかるためです。

静電容量の観点から見ると、直列接続は、極板の間隔を広げる効果と等価であると考えることができます。間隔 \(d\) が大きくなれば、容量 \(C = \epsilon_0 S / d\) は小さくなります。したがって、直列接続すると、全体の容量は減少します。

バケツのアナロジーでは少し難しいですが、底に穴の開いたバケツを縦に積み重ねるイメージに近いかもしれません。全体の水位差(電圧)は大きくなりますが、溜められる水の量(電荷)は、最も小さいバケツ(最も容量の小さいコンデンサー)によって制限されてしまいます。

これらの接続方法の物理的な特徴を、「電圧が等しいか、和になるか」「電荷が等しいか、和になるか」という観点から明確に区別して理解することが、次の合成容量の計算をマスターするための鍵となります。

5. 合成容量の計算

複数のコンデンサーが接続された回路を、あたかも単一の等価なコンデンサーであるかのように見なしたとき、その等価なコンデンサーが持つべき静電容量のことを「合成容量 (equivalent capacitance)」と呼びます。合成容量を求めることができれば、複雑な回路をよりシンプルな回路に置き換えて考えることが可能になります。

計算のプロセスは、前セクションで学んだ直列・並列接続のそれぞれの物理的特徴(電圧と電荷の関係)と、静電容量の基本定義式 \(Q=CV\) を組み合わせることで、代数的に導出できます。

5.1. 並列接続の合成容量

【状況設定】

静電容量がそれぞれ \(C_1, C_2, \dots, C_n\) の \(n\) 個のコンデンサーが並列に接続され、全体に電圧 \(V\) がかかっているとします。この回路全体の合成容量を \(C_p\)(pはparallelの意)とします。

【導出プロセス】

  1. 基本法則の確認:
    • 電圧の関係: \(V_1 = V_2 = \dots = V_n = V\) (電圧は全て等しい)
    • 電荷の関係: \(Q = Q_1 + Q_2 + \dots + Q_n\) (全体の電荷は各電荷の和)
  2. 基本定義式の適用:
    • 各コンデンサーについて、\(Q_i = C_i V_i\) が成り立ちます。
    • 合成容量を持つ等価なコンデンサーについては、\(Q = C_p V\) が成り立ちます。
  3. 式の結合と代入:
    • 電荷の関係式 \(Q = Q_1 + Q_2 + \dots + Q_n\) に、上記の定義式を代入していきます。\[ C_p V = (C_1 V_1) + (C_2 V_2) + \dots + (C_n V_n) \]
    • ここで、電圧は全て等しい(\(V_1 = V_2 = \dots = V\))ので、\[ C_p V = C_1 V + C_2 V + \dots + C_n V \]
    • 右辺を \(V\) でくくると、\[ C_p V = (C_1 + C_2 + \dots + C_n) V \]
  4. 最終的な公式の導出:
    • 両辺の \(V\) を消去すると、並列接続の合成容量の公式が得られます。\[ C_p = C_1 + C_2 + \dots + C_n \]

【結論】

並列接続の場合、合成容量は各コンデンサーの静電容量の単純な和になります。コンデンサーを並列に追加すればするほど、全体の容量は増加します。これは、極板の総面積が増加する効果に対応しており、直感的にも理解しやすい結果です。

5.2. 直列接続の合成容量

【状況設定】

静電容量がそれぞれ \(C_1, C_2, \dots, C_n\) の \(n\) 個のコンデンサーが直列に接続され、全体に電圧 \(V\) がかかっているとします。この回路全体の合成容量を \(C_s\)(sはseriesの意)とします。

【導出プロセス】

  1. 基本法則の確認:
    • 電荷の関係: \(Q_1 = Q_2 = \dots = Q_n = Q\) (電荷は全て等しい)
    • 電圧の関係: \(V = V_1 + V_2 + \dots + V_n\) (全体の電圧は各電圧の和)
  2. 基本定義式の適用:
    • 各コンデンサーについて、\(V_i = Q_i / C_i\) が成り立ちます。
    • 合成容量を持つ等価なコンデンサーについては、\(V = Q / C_s\) が成り立ちます。
  3. 式の結合と代入:
    • 電圧の関係式 \(V = V_1 + V_2 + \dots + V_n\) に、上記の定義式を代入していきます。\[ \frac{Q}{C_s} = \frac{Q_1}{C_1} + \frac{Q_2}{C_2} + \dots + \frac{Q_n}{C_n} \]
    • ここで、電荷は全て等しい(\(Q_1 = Q_2 = \dots = Q\))ので、\[ \frac{Q}{C_s} = \frac{Q}{C_1} + \frac{Q}{C_2} + \dots + \frac{Q}{C_n} \]
    • 右辺を \(Q\) でくくると、\[ \frac{Q}{C_s} = Q \left( \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2} + \dots + \frac{1}{C_n} \right) \]
  4. 最終的な公式の導出:
    • 両辺の \(Q\) を消去すると、直列接続の合成容量の公式が得られます。\[ \frac{1}{C_s} = \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2} + \dots + \frac{1}{C_n} \]

【結論】

直列接続の場合、合成容量の逆数が、各コンデンサーの静電容量の逆数の和になります。この計算からわかるように、コンデンサーを直列に接続すると、合成容量は個々のどのコンデンサーの容量よりも小さくなります。特に、2つのコンデンサー \(C_1, C_2\) の直列接続の場合は、

\[ C_s = \frac{C_1 C_2}{C_1 + C_2} \quad (\text{和ぶんの積}) \]

という形で計算されることが多く、便利です。

5.3. 抵抗の合成公式との比較と注意点

電気回路を学ぶ上で、多くの初学者が混乱するのが、コンデンサーの合成容量と抵抗の合成抵抗の公式が、直列と並列でちょうど逆の形をしていることです。

接続方法コンデンサーの合成容量 \(C\)抵抗の合成抵抗 \(R\)
並列接続\(C_p = C_1 + C_2 + \dots\)\(\frac{1}{R_p} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2} + \dots\)
直列接続\(\frac{1}{C_s} = \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2} + \dots\)\(R_s = R_1 + R_2 + \dots\)

この違いを、単なる形式として丸暗記しようとすると、必ず混同が生じます。なぜ形が逆になるのか、その物理的な意味を理解することが重要です。

  • コンデンサーの並列: 極板の「面積が増える」効果 → 容量は増加(単純和)。
  • 抵抗の並列: 電流の通り道が「断面積が増える」効果 → 電流は流れやすくなる → 抵抗は減少(逆数和)。
  • コンデンサーの直列: 極板の「間隔が広がる」効果 → 容量は減少(逆数和)。
  • 抵抗の直列: 電流の通り道が「長さが長くなる」効果 → 電流は流れにくくなる → 抵抗は増加(単純和)。

このように、それぞれの物理的な意味やアナロジーと結びつけて理解することで、公式の形を自然に思い出すことができ、混同を防ぐことができます。

6. コンデンサーに蓄えられる静電エネルギー

コンデンサーの最も重要な役割は、電荷を蓄えることによって、静電エネルギー (electrostatic energy) を貯蔵することです。カメラのフラッシュが一瞬で強い光を放つことができるのも、電気自動車がモーターを力強く回転させることができるのも、コンデンサーに蓄えられたエネルギーを瞬時に解放する能力のおかげです。

では、電荷 \(Q\) が蓄えられ、極板間の電圧が \(V\) になったコンデンサーには、一体どれだけのエネルギーが蓄えられているのでしょうか。このセクションでは、そのエネルギー量を計算するための公式を導出します。この導出には、コンデンサーを充電するプロセスを「仕事」の観点から考える方法が有効です。

6.1. エネルギーの導出:V-Qグラフの面積

コンデンサーに蓄えられるエネルギー \(U\) は、そのコンデンサーを充電するために外力がした仕事の総量に等しいと考えることができます。

最初は電荷がゼロの状態から、最終的に電荷が \(Q\)、電圧が \(V\) になるまで、微小な電荷 \(\Delta q\) を少しずつ一方の極板からもう一方の極板へ運んでいくプロセスを想像してみましょう。

  • 充電の途中、コンデンサーに電荷 \(q’\) が蓄えられ、電圧が \(v’\) になっているとします。このとき、\(q’ = Cv’\) が成り立っています。
  • この状態から、さらに微小な電荷 \(\Delta q\) を運ぶのに必要な仕事 \(\Delta W\) は、その時点での電圧 \(v’\) に逆らって運ぶ仕事なので、\[ \Delta W = v’ \Delta q \]となります。
  • 最終的に蓄えられる総エネルギー \(U\) は、この微小な仕事を、電荷が0から \(Q\) になるまで全て足し合わせたもの(積分)になります。\[ U = \sum \Delta W = \int_0^Q v’ dq’ \]

この積分計算は、V-Qグラフを考えると非常に直感的に理解できます。

コンデンサーの電圧 \(V\) と電荷 \(Q\) の関係は、\(V = (1/C)Q\) という、原点を通る傾き \(1/C\) の直線になります。

横軸に \(Q\)(電荷)、縦軸に \(V\)(電圧)をとってグラフを描くと、\(U = \int V dQ\) という積分は、この直線とQ軸、そして \(Q=Q\) の線で囲まれた部分の面積に相当します。

この図形は、底辺が \(Q\)、高さが \(V\) の三角形です。したがって、その面積は、

\[ U = (\text{三角形の面積}) = \frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ}) \]

\[ U = \frac{1}{2} Q V \]

これが、コンデンサーに蓄えられる静電エネルギーを計算するための、最も基本的で重要な公式です。

6.2. 静電エネルギーの3つの公式

基本公式 \(U = \frac{1}{2}QV\) に、コンデンサーの基本定義式 \(Q=CV\) を組み合わせることで、エネルギーを表す式をあと2通り作ることができます。問題に応じて、どの公式を使うと計算が楽になるかが変わるため、3つの形を全て自由に使いこなせるようにしておくことが重要です。

1. 基本形

\[ U = \frac{1}{2}QV \]

電荷 \(Q\) と電圧 \(V\) が分かっている場合に便利です。導出の元となった形であり、最も本質的です。

2. CとVで表す形

基本形に \(Q=CV\) を代入します。

\[ U = \frac{1}{2}(CV)V = \frac{1}{2}CV^2 \]

静電容量 \(C\) と電圧 \(V\) が分かっている場合に非常に便利です。特に、コンデンサーが電池に接続されたまま(電圧 \(V\) が一定)の状況を考える際によく使われます。

3. QとCで表す形

基本形に \(V=Q/C\) を代入します。

\[ U = \frac{1}{2}Q\left(\frac{Q}{C}\right) = \frac{Q^2}{2C} \]

電荷 \(Q\) と静電容量 \(C\) が分かっている場合に便利です。特に、コンデンサーを充電した後に電池から切り離した(電荷 \(Q\) が一定)状況を考える際によく使われます。

【3つの公式の使い分け】

どの公式を使っても同じ結果が得られますが、問題の条件によって、どの変数が一定に保たれ、どの変数が変化するかが異なります。

  • 電圧一定の操作(電池につないだまま):\(U = \frac{1}{2}CV^2\) を使うと、\(C\) の変化が直接 \(U\) の変化にどう影響するかが分かりやすい。
  • 電荷一定の操作(電池から切り離した後):\(U = \frac{Q^2}{2C}\) を使うと、\(C\) の変化が直接 \(U\) の変化にどう影響するかが分かりやすい。この使い分けを意識することで、計算が簡略化され、思考の見通しが格段に良くなります。

6.3. エネルギー密度

コンデンサーに蓄えられたエネルギーは、どこに存在するのでしょうか?物理学では、このエネルギーは、極板間の電場が存在する空間そのものに蓄えられていると考えます。

この考え方に基づき、単位体積あたりの静電エネルギー、すなわちエネルギー密度 (energy density) \(u_e\) を計算してみましょう。

平行平板コンデンサーの場合、

  • 蓄えられるエネルギー: \(U = \frac{1}{2}CV^2\)
  • 静電容量: \(C = \epsilon_0 S / d\)
  • 電圧と電場の関係: \(V = Ed\)
  • 極板間の体積: \(\text{Volume} = S \times d\)

これらをエネルギーの式に代入していくと、

\[ U = \frac{1}{2} \left( \frac{\epsilon_0 S}{d} \right) (Ed)^2 = \frac{1}{2} \frac{\epsilon_0 S}{d} E^2 d^2 = \frac{1}{2} \epsilon_0 E^2 (Sd) \]

エネルギー密度 \(u_e\) は、この総エネルギー \(U\) を体積 \(Sd\) で割ったものです。

\[ u_e = \frac{U}{\text{Volume}} = \frac{\frac{1}{2} \epsilon_0 E^2 (Sd)}{Sd} = \frac{1}{2} \epsilon_0 E^2 \]

この式は、空間のある点のエネルギー密度が、その点の電場の強さ \(E\) の2乗に比例することを示しています。これは平行平板コンデンサーから導出されましたが、実はどのような電場についても成り立つ普遍的な関係です。電場が存在する全ての空間には、エネルギーが蓄えられているのです。この「場のエネルギー」という概念は、後に電磁波がエネルギーを運ぶ現象を理解する上で、極めて重要な役割を果たします。

7. 極板間引力の計算

電荷を蓄えたコンデンサーの2枚の極板は、一方が正に、もう一方が負に帯電しています。異符号の電荷は互いに引き合うため、極板間には引力が働きます。もし極板を自由に動けるようにしておけば、それらは互いに引き寄せられてくっついてしまうでしょう。

この極板間に働く力の大きさは、どのように計算できるのでしょうか。この問題には、2つの異なる、しかし等価なアプローチが存在します。一つは「エネルギー」の観点から、もう一つは「電場」の観点から考える方法です。両方のアプローチを理解することで、物理法則の多面性と、異なる概念間の深いつながりを実感することができます。

7.1. アプローチ1:エネルギー法(F = -dU/dx)

物理学における力と位置エネルギーの間には、\(F = -dU/dx\) という一般的な関係があります。これは、力とは、位置エネルギーが空間的に最も急に減少する方向とその大きさを表す、という関係です。この関係を利用して、極板間引力を求めてみましょう。

【思考プロセス】

  1. 系のエネルギーを位置の関数として表す:まず、コンデンサーに蓄えられる静電エネルギー \(U\) を、極板間の距離 \(x\) の関数として表現する必要があります。ここで重要なのは、どの物理量を一定に保って極板を動かすか、という条件設定です。最も考えやすいのは、コンデンサーを充電した後に電池から切り離すケースです。この場合、極板上の電荷 \(Q\) は一定に保たれます(逃げ場がないため)。
  2. 適切なエネルギー公式の選択:電荷 \(Q\) が一定の条件なので、3つのエネルギー公式のうち \(U = \frac{Q^2}{2C}\) を使うのが最も賢明です。
  3. 静電容量を位置の関数で表す:平行平板コンデンサーの容量 \(C\) は、極板間隔に反比例します。間隔を \(x\) とすると、\(C = \frac{\epsilon_0 S}{x}\) となります。
  4. エネルギーを \(x\) で表現:\(U = \frac{Q^2}{2C}\) に \(C = \epsilon_0 S / x\) を代入します。\[ U(x) = \frac{Q^2}{2(\epsilon_0 S / x)} = \frac{Q^2 x}{2\epsilon_0 S} \]
  5. 微分して力を求める:力 \(F\) は、このエネルギー \(U(x)\) を位置 \(x\) で微分し、マイナスをつけたものです。\[ F = -\frac{dU}{dx} = -\frac{d}{dx} \left( \frac{Q^2 x}{2\epsilon_0 S} \right) \]\(\frac{Q^2}{2\epsilon_0 S}\) は定数なので、微分の外に出せます。\[ F = -\frac{Q^2}{2\epsilon_0 S} \frac{d}{dx}(x) = -\frac{Q^2}{2\epsilon_0 S} \times 1 = -\frac{Q^2}{2\epsilon_0 S} \]ここで得られた負号は、力が \(x\) が増加する向き(極板が離れる向き)とは逆、つまり極板が引き合う向き(引力)であることを示しています。したがって、力の大きさは、\[ F = \frac{Q^2}{2\epsilon_0 S} \]となります。

【注意:なぜ \(U = (1/2)CV^2\) ではダメなのか?】

もし、電池につないだまま(電圧 \(V\) が一定)の条件で、\(U = \frac{1}{2}CV^2\) を使って \(F = -dU/dx\) を計算すると、間違った答え(符号が逆で大きさが半分)が出てきてしまいます。これは、極板を動かす際に、電池もまた仕事をするため、系のエネルギー変化を考える際には「コンデンサーのエネルギー」と「電池がした仕事」の両方を考慮しなければならないからです。\(Q\) を一定にするアプローチの方が、系が孤立しているため、この問題を回避できます。

7.2. アプローチ2:電場法(F = qE)

次に、より直接的な力の定義 \(F=qE\) に基づいて引力を計算してみましょう。

【思考プロセス】

  1. 状況の再定義:極板A(電荷 \(+Q\))と極板B(電荷 \(-Q\))を考えます。私たちが求めたいのは、例えば「極板Bが、極板Aから受ける力」です。
  2. 力の方程式:この力は、極板B上にある電荷 \(-Q\) が、極板Aだけが作る電場 \(E_A\) から受ける力として計算できます。\[ F = (-Q) \times E_A \](力の大きさだけを考えれば \(F = QE_A\))
  3. 電場の特定(最重要ポイント):ここで最大の注意点は、極板Bの位置における電場は、コンデンサー内部の合成電場 \(E = \sigma/\epsilon_0\) ではないということです。なぜなら、合成電場 \(E\) は、極板Aが作る電場と、極板B自身が作る電場の和だからです。物体が自分自身の作る場で自分自身に力を及ぼすことはありません。
  4. 一方の極板だけが作る電場:無限に広い荷電平板1枚が作る電場は、その片側で \(E = \sigma / (2\epsilon_0)\) でした。したがって、極板A(電荷密度 \(+\sigma\))だけが、極板Bの位置に作る電場の大きさ \(E_A\) は、\[ E_A = \frac{\sigma}{2\epsilon_0} = \frac{Q/S}{2\epsilon_0} = \frac{Q}{2\epsilon_0 S} \]となります。(ちなみに、極板B自身も \(E_B = \sigma / (2\epsilon_0)\) の電場を作っており、この和が合成電場 \(E = E_A + E_B = \sigma/\epsilon_0\) となっているのです。)
  5. 力の計算:この電場 \(E_A\) から、電荷 \(Q\) を持つ極板Bが受ける力の大きさは、\[ F = Q E_A = Q \left( \frac{Q}{2\epsilon_0 S} \right) = \frac{Q^2}{2\epsilon_0 S} \]となり、エネルギー法で得られた結果と完全に一致します。

【まとめと考察】

二つの全く異なるアプローチが、同じ結論を導きました。これは、物理法則の整合性の高さを示す美しい例です。

  • エネルギー法は、系全体のエネルギー状態の変化から力を導く、マクロで熱力学的なアプローチです。
  • 電場法は、電荷と電場の直接的な相互作用から力を導く、ミクロで力学的なアプローチです。

どちらの方法も理解し、使いこなせるようになることで、物理現象に対する理解はより深く、多角的になります。特に、電場法の「自分自身の作る場からは力を受けない」という点は、作用・反作用の法則とも関連する、物理学における重要な思考原則です。

8. 誘電体の挿入と誘電率

これまで、私たちは主に極板間が真空であるコンデンサーを考えてきました。しかし、実際のコンデンサーのほとんどは、極板の間に紙、プラスチックフィルム、セラミックといった絶縁体を挟んでいます。コンデンサーに用いられるこのような絶縁体を、特に「誘電体 (dielectric)」と呼びます。

なぜ、わざわざ誘電体を挿入するのでしょうか?それには、2つの大きな実用的な理由があります。そして、その背後には、誘電体がコンデンサーの性能、特に静電容量を劇的に向上させるという、興味深い物理現象が隠されています。

8.1. 誘電体を挿入する目的

  1. 極板の機械的な支持と絶縁:薄い金属箔でできた極板同士が接触(ショート)してしまうのを防ぎ、極板間の距離を狭く、かつ一定に保つためのスペーサーとしての役割があります。極板間隔 \(d\) を小さくすれば容量 \(C\) は大きくなるため、極薄の誘電体フィルムを挟むことで、小型で大容量のコンデンサーを作ることができます。
  2. 静電容量の増加:これが物理的に最も重要な効果です。極板間に誘電体を挿入すると、真空の場合に比べて、コンデンサーの静電容量が増加します。この現象のメカニズムは、Module 1で学んだ「誘電分極」にあります。

8.2. 誘電分極による電場の変化(復習)

誘電体を外部電場 \(E_0\)(この場合は、コンデンサーの極板が作る電場)の中に置くと、誘電体内部の原子や分子が分極を起こします。これを誘電分極と呼びました。

  • 分極の結果、誘電体の表面には分極電荷が現れます。この分極電荷は、外部電場 \(E_0\) を打ち消す向きに、内部電場 \(E’\) を作ります。
  • その結果、誘電体内部の合成電場 \(E\) は、元の電場 \(E_0\) よりも弱められます。\[ E = E_0 – E’ < E_0 \]
  • 導体の場合は内部電場が完全にゼロになりましたが、誘電体の場合は弱められるだけで、ゼロにはなりません。

8.3. 誘電率と比誘電率

この「電場を弱める効果」の度合いは、誘電体の種類によって異なります。その物質固有の電気的性質を表すのが「誘電率 (permittivity)」です。

  • 真空の誘電率 \(\epsilon_0\):これまで使ってきた \(\epsilon_0 \approx 8.85 \times 10^{-12} , F/m\) は、基準となる真空の誘電率です。
  • 物質の誘電率 \(\epsilon\):何らかの物質(誘電体)で満たされた空間の誘電率を \(\epsilon\) と書きます。全ての物質は、真空よりも分極しやすいため、電場を弱める効果が大きく、誘電率 \(\epsilon\) は真空の誘電率 \(\epsilon_0\) よりも必ず大きくなります(\(\epsilon > \epsilon_0\))。

この、真空の誘電率に対する物質の誘電率の比を、「比誘電率 (relative permittivity)」と呼び、記号 \(\epsilon_r\) で表します。

\[ \epsilon_r = \frac{\epsilon}{\epsilon_0} \]

比誘電率 \(\epsilon_r\) は、単位を持たない単なる数値(無次元量)であり、その物質が真空に比べて何倍電場を弱める能力があるかを示しています。

\(\epsilon_r > 1\) であり、真空の場合は \(\epsilon_r = 1\) です。空気の比誘電率は約1.0006で、ほとんど真空と変わりませんが、水(約80)や特殊なセラミック(数千〜数万)など、非常に大きな比誘電率を持つ物質もあります。

電場が弱められる関係は、比誘電率を用いて以下のように表すことができます。

誘電体を挿入した後の内部の電場 \(E\) は、真空中の電場を \(E_0\) とすると、

\[ E = \frac{E_0}{\epsilon_r} \]

となります。比誘電率 \(\epsilon_r\) が大きい物質ほど、電場をより強く弱めることができるのです。

この「電場を弱める」という一見単純な効果が、次のセクションで見るように、コンデンサーの静電容量を \(\epsilon_r\) 倍に増大させるという、劇的な結果をもたらします。

9. 誘電体を挿入したコンデンサーの容量

前セクションで、コンデンサーの極板間に誘電体を挿入すると、誘電分極の効果によって内部の電場が弱められることを学びました。この電場の変化は、コンデンサーの性能、特にその静電容量にどのような影響を与えるのでしょうか。

このセクションでは、誘電体を挿入した平行平板コンデンサーの静電容量を具体的に計算し、その結果から誘電体がもたらす驚くべき効果を定量的に理解します。また、大学入試で頻出する「電池に接続したまま挿入するケース」と「電池から切り離して挿入するケース」の違いについても、物理的に何が一定で何が変化するのかを明確にしながら分析します。

9.1. 誘電体で満たされたコンデンサーの容量

【状況設定】

極板の面積が \(S\)、間隔が \(d\) の平行平板コンデンサーの極板間を、比誘電率 \(\epsilon_r\)(誘電率 \(\epsilon = \epsilon_r \epsilon_0\))の誘電体で完全に満たしたとします。

【導出プロセス】

このコンデンサーの容量 \(C\) を、真空中の容量 \(C_0 = \epsilon_0 S / d\) と比較しながら求めてみましょう。導出の戦略は、真空の場合と全く同じです。

  1. Step 1: 電場 \(E\) を求める
    • 極板に電荷 \(+Q, -Q\) を与えたとします。もし極板間が真空ならば、作られる電場は \(E_0 = \frac{Q}{\epsilon_0 S}\) です。
    • しかし、今は比誘電率 \(\epsilon_r\) の誘電体で満たされているため、内部の電場 \(E\) は \(\epsilon_r\) 分の1に弱められます。\[ E = \frac{E_0}{\epsilon_r} = \frac{1}{\epsilon_r} \left( \frac{Q}{\epsilon_0 S} \right) = \frac{Q}{\epsilon_r \epsilon_0 S} \]
    • あるいは、より直接的に、空間の誘電率が \(\epsilon_0\) から \(\epsilon = \epsilon_r \epsilon_0\) に置き換わったと考えて、公式 \(E = Q / (\epsilon S)\) を使っても同じ結果になります。
  2. Step 2: 電位差 \(V\) を求める
    • 極板間の電場は(弱められてはいるものの)一様なので、電位差 \(V\) は \(V=Ed\) で計算できます。\[ V = Ed = \left( \frac{Q}{\epsilon_r \epsilon_0 S} \right) d = \frac{d}{\epsilon_r \epsilon_0 S} Q \]
  3. Step 3: 静電容量 \(C\) を求める
    • 定義式 \(C = Q/V\) に、上記の \(V\) の式を代入します。\[ C = \frac{Q}{V} = \frac{Q}{\frac{d}{\epsilon_r \epsilon_0 S} Q} = \frac{\epsilon_r \epsilon_0 S}{d} \]

【結論】

\[ C = \epsilon_r \left( \frac{\epsilon_0 S}{d} \right) = \epsilon_r C_0 \]

この結果は、極板間を比誘電率 \(\epsilon_r\) の誘電体で満たすと、静電容量は真空の場合の \(\epsilon_r\) 倍になることを示しています。比誘電率が80の水を使えば容量は80倍に、数千のセラミックを使えば容量は数千倍にもなるのです。これが、誘電体がコンデンサーの性能向上に不可欠である理由です。

9.2. ケーススタディ:誘電体挿入時の変化

誘電体を挿入する際の状況設定として、代表的な2つのケースがあります。物理的に何が一定に保たれるかを正確に把握することが、問題を解く鍵となります。

ケースA:充電後、電池から切り離して誘電体を挿入

  1. 不変量: コンデンサーは回路から孤立しているため、電荷の逃げ場がありません。したがって、電荷 \(Q\) が一定に保たれます。
  2. 変化する量:
    • 静電容量 \(C\): \(C_0 \to C = \epsilon_r C_0\) (\(\epsilon_r\) 倍に増加
    • 電圧 \(V\): \(V = Q/C\) で、\(Q\) は一定、\(C\) が \(\epsilon_r\) 倍になるので、電圧は \(1/\epsilon_r\) 倍に減少します。
    • 電場 \(E\): \(E=V/d\) で、\(V\) が \(1/\epsilon_r\) 倍になるので、電場も \(1/\epsilon_r\) 倍に減少します。
    • エネルギー \(U\): \(Q\)が一定なので \(U = Q^2/(2C)\) を使います。\(C\) が \(\epsilon_r\) 倍になるので、エネルギーは \(1/\epsilon_r\) 倍に減少します。
    なぜエネルギーが減少するのか?: 誘電体を挿入する際、誘電体はコンデンサーの電場から引力を受けて、自ら引き込まれようとします。このとき、電場が誘電体に対して正の仕事をします。その仕事の分だけ、コンデンサーが蓄えていた静電エネルギーが消費され、減少するのです。もしゆっくり挿入するなら、外力は引き込まれる力に逆らって負の仕事をする必要があります。

ケースB:電池に接続したまま誘電体を挿入

  1. 不変量: コンデンサーは常に電池に接続されているため、極板間の電位差は電池の電圧と等しく保たれます。したがって、電圧 \(V\) が一定に保たれます。
  2. 変化する量:
    • 静電容量 \(C\): \(C_0 \to C = \epsilon_r C_0\) (\(\epsilon_r\) 倍に増加
    • 電荷 \(Q\): \(Q=CV\) で、\(V\) は一定、\(C\) が \(\epsilon_r\) 倍になるので、蓄えられる電荷は \(\epsilon_r\) 倍に増加します。電池から追加の電荷が供給されるのです。
    • 電場 \(E\): \(E=V/d\) で、\(V\) も \(d\) も一定なので、極板間の電場は変化しません。*これは奇妙に思えるかもしれません。誘電分極は電場を弱めるはずでは?実は、弱められた電場を元の強さ(\(V/d\))に維持するために、電池が追加の電荷(分極電荷を打ち消すための電荷)を極板に送り込むのです。
    • エネルギー \(U\): \(V\)が一定なので \(U = (1/2)CV^2\) を使います。\(C\) が \(\epsilon_r\) 倍になるので、エネルギーは \(\epsilon_r\) 倍に増加します。
    なぜエネルギーが増加するのか?: エネルギーの増加分 \(\Delta U = U – U_0 = (\epsilon_r – 1)U_0\) は、電池が供給したものです。電池は追加の電荷 \(\Delta Q = (\epsilon_r-1)Q_0\) を電圧 \(V\) で送り込んだので、電池がした仕事は \(W_{battery} = \Delta Q \cdot V = (\epsilon_r – 1)Q_0 V = 2(\epsilon_r – 1)U_0\) となります。この仕事の一部(半分)がコンデンサーのエネルギー増加分となり、残りの半分は誘電体を引き込む仕事として使われます。

これらの2つのケースは、物理法則を適用する上で、どの量が保存され、どの量が変化するのかを見極める「制約条件」の重要性を示す、絶好の例題と言えます。

10. コンデンサーを含む回路の過渡現象(定性的理解)

これまでは、コンデンサーが充電を完了した後の「定常状態」について主に考えてきました。しかし、コンデンサーが回路に組み込まれ、スイッチがON/OFFされた直後には、電荷や電圧、電流が時間とともに変化していく「過渡状態 (transient state)」と呼ばれる現象が起こります。

この過渡現象を数学的に厳密に解くには微分方程式が必要となり、大学物理の範囲となります。しかし、大学受験物理においては、その厳密な解法ではなく、スイッチを入れた直後と、十分に時間が経過した後という、2つの極端な状態において、コンデンサーがどのように振る舞うかを定性的に理解しておくことが極めて重要です。この理解だけで解ける問題が数多く出題されます。

10.1. 基本的なRC直列回路

最も基本的な例として、抵抗 \(R\)、コンデンサー \(C\)、起電力 \(V\) の電池、スイッチ \(S\) を直列に接続した「RC直列回路」を考えます。はじめ、コンデンサーに電荷は蓄えられていない(\(Q=0\))とします。

10.2. スイッチを入れた直後(t = 0)の振る舞い

スイッチSを入れた瞬間、あるいはその直後には、コンデンサーはどのような振る舞いをするでしょうか。

  • コンデンサーの状態: スイッチを入れる直前、コンデンサーには電荷が全く蓄えられていませんでした(\(Q=0\))。電荷がゼロなので、その極板間の電圧も \(V_C = Q/C = 0\) です。電荷や電圧は、瞬間的に(時間の経過なしに)変化することはできません。
  • コンデンサーの役割: 電圧がゼロということは、その瞬間、コンデンサーは電圧降下を全く引き起こさないということです。これは、回路素子としては、抵抗がゼロの「ただの導線(ショート回路)」と等価であると見なせます。
  • 回路全体の振る舞い: したがって、スイッチを入れた直後の回路は、まるでコンデンサーが存在せず、ただ抵抗 \(R\) だけが電池 \(V\) に接続されているかのように振る舞います。
  • 流れる電流: オームの法則により、この瞬間に流れる電流 \(I_0\) は、\[ I_0 = \frac{V}{R} \]となります。これが、充電開始時の電流の最大値です。

【結論:スイッチON直後】

電荷ゼロのコンデンサーは、「導線」と見なせる。

10.3. 十分に時間が経過した後(t → ∞)の振る舞い

スイッチを入れたまま、非常に長い時間が経過すると、回路はどのような状態に落ち着くでしょうか。この状態を「定常状態」と呼びます。

  • コンデンサーの状態: 回路に電流が流れ続けると、コンデンサーにはどんどん電荷が蓄積されていきます。それに伴い、コンデンサーの電圧 \(V_C = Q/C\) も上昇していきます。
  • 充電の完了: やがて、コンデンサーの電圧 \(V_C\) が、電池の電圧 \(V\) と等しくなった時点で、回路全体の電位差が相殺され、もはや電流を流す力がなくなります。この時点で充電は完了し、電流は流れなくなります。
  • コンデンサーの役割: 電流が全く流れなくなるということは、その部分が回路的に「断線(オープン回路)」しているのと等価であると見なせます。
  • 回路全体の振る舞い: したがって、十分に時間が経過した後の回路は、コンデンサーの部分が断線しているかのように振る舞います。
  • 最終的な状態:
    • 回路に流れる電流: \(I_\infty = 0\)
    • コンデンサーの電圧: \(V_C = V\)
    • コンデンサーの電荷: \(Q_\infty = CV_C = CV\)

【結論:十分時間経過後】

コンデンサーは、「断線」と見なせる。

10.4. 定性的理解の重要性

この2つの極端な状態におけるコンデンサーの振る舞い、

  • 充電開始時 → 「導線」
  • 充電完了時 → 「断線」という定性的な理解は、複雑なコンデンサー回路の問題を解く上で、極めて強力な武器となります。

例えば、複数の抵抗やコンデンサーが複雑に組み合わさった回路で、「スイッチを入れた直後に抵抗R1を流れる電流を求めよ」といった問題が出された場合、

  1. まず、回路図中の全てのコンデンサーを「導線」に置き換える。
  2. その結果として得られる、抵抗だけの単純な回路について、キルヒホッフの法則などを用いて電流を計算する。

という手順で、簡単に答えを導き出すことができます。同様に、「十分に時間が経過した後にコンデンサーC2に蓄えられる電荷を求めよ」といった問題では、

  1. まず、コンデンサーを含む経路を「断線」と見なす。
  2. 電流が流れる部分回路について、各点の電位を計算する。
  3. コンデンサーC2の両端の電位差を求め、\(Q=CV\) から電荷を計算する。

という手順で解くことができます。過渡現象の微分方程式を解くことなく、回路の初期状態と最終状態を的確に予測する能力。これこそが、大学受験物理で問われる、コンデンサー回路に対する深い洞察力なのです。

Module 3:コンデンサーの総括:電荷のダムを制し、静電エネルギーを掌握する

本モジュールでは、静電気学の理論が「コンデンサー」という具体的な電子部品の中で、いかにして見事な機能を発揮するかを探求してきました。私たちは、2枚の導体を向かい合わせるという単純な構造が、静電誘導の原理を通じて、なぜ効率的に電荷を蓄える「ダム」となり得るのか、その物理的なメカニズムから学び始めました。

その「ダムの大きさ」を定量的に示す「静電容量」という概念を定義し、それが電荷や電圧といった外的要因によらず、コンデンサーの幾何学的形状と内部を充填する物質の性質(誘電率)のみで決まる、固有の性能値であることを、平行平板コンデンサーの導出を通じて証明しました。この理解は、部品の設計原理そのものに触れる、物理学の予測能力の美しい一例です。

さらに、複数のコンデンサーを組み合わせる「直列・並列接続」の法則を学び、抵抗の合成則との対比を通じて、その物理的意味を深く考察しました。そして、コンデンサーの真価である「静電エネルギー」の貯蔵に焦点を当て、そのエネルギーが V-Q グラフの面積として、あるいは電場が存在する空間のエネルギー密度として、二重の描像で捉えられることを確認しました。極板間引力の計算は、エネルギーの視点と力の視点という、異なるアプローチが同一の結論に至る物理法則の整合性を示してくれました。

モジュールの後半では、誘電体の挿入が、誘電分極による内部電場の減衰を通じて、静電容量を劇的に増大させるという、応用上極めて重要な現象を解き明かしました。特に、電池に接続したままか否かという「制約条件」の違いが、系の物理量にどのような変化をもたらすかの分析は、物理法則を正しく適用する上で不可欠な論理的思考力を養うものでした。最後に、回路におけるコンデンサーの過渡的な振る舞いを定性的に理解することで、理論と実践的な回路解析とを結びつけ、より複雑な問題への扉を開きました。

このモジュールを通じて、私たちは単にコンデンサーの使い方を学んだのではありません。静電気学の諸原理が、どのように一つの機能的なデバイスを形作り、その性能を規定し、そしてエネルギーを掌握するか、という一貫した物語を読み解いたのです。ここで得た知識と洞察は、次なる「直流回路」、さらには「交流回路」といった、よりダイナミックな電気の世界を理解するための、不可欠な知的基盤となるでしょう。

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