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【基礎 物理(電磁気学)】Module 5:電流と磁場
本モジュールの目的と構成
これまでの私たちの旅は、電気という一つの現象の、異なる側面を探求するものでした。静止した電荷が「電場」と「電位」というポテンシャルの場を形成し、コンデンサーという「ダム」にエネルギーを蓄える。そして、そのポテンシャル差によって電荷が流れ出すと、「電流」という運動が生まれる。しかし、物理学の歴史において、これと並行して全く別の現象として研究されてきたものがあります。それは、磁石が鉄を引きつけ、方位磁針を特定の方角に向ける、不可解で神秘的な力、「磁気」です。
長らく、電気と磁気は互いに無関係な、自然界の二つの異なる力であると信じられてきました。本モジュールは、その常識が覆された、物理学史における最も劇的な瞬の一つへと皆さんを誘います。19世紀初頭、ハンス・クリスティアン・エルステッドの偶然の発見によって、電気と磁気の間に存在する、隠された深遠な結びつきが初めて白日の下に晒されました。すなわち、運動する電気(電流)は、その周りに磁気を帯びた空間、すなわち「磁場」を生み出すという、驚くべき事実です。
この発見は、物理学の世界観を根底から変えました。電気と磁気は、もはや別々の力ではありません。それらは、いわば同じコインの裏表であり、「電磁気」という、より統一された一つの現象の異なる側面に過ぎなかったのです。本モジュールでは、この電磁気学の核心をなす、電流と磁場の相互作用について、その法則性を体系的に解き明かしていきます。
学習は、まず磁気現象そのものの記述から始まり、電流が磁場を生み出す法則、そして逆に磁場が電流に力を及ぼす法則へと、以下の論理的なステップで展開されます。
- 磁石と磁場、磁力線: まず、身近な存在である永久磁石から出発し、その周りの空間の性質である「磁場」と、それを視覚化するための「磁力線」の概念を定義します。
- 電流の磁気作用(右ねじの法則): エルステッドの発見の追体験として、電流が磁場を生み出すという「電流の磁気作用」を学び、その磁場の向きを決定するための「右ねじの法則」を習得します。
- 直線電流が作る磁場の計算: 最も基本的な電流の形である、無限に長い直線電流が作る磁場の大きさを計算する公式を学びます。
- 円形電流が作る磁場の計算: もう一つの重要な形状である、円形コイルの中心に作られる磁場の大きさを計算します。
- ソレノイドコイルが作る磁場: 強く、一様な磁場を作り出すための重要な装置であるソレノイドコイルの性質を学びます。
- 磁場の重ね合わせの原理: 複数の電流が存在する場合に、合成された磁場がどのようになるかを、ベクトル和としての「重ね合わせの原理」を用いて考えます。
- 磁場中の電流が受ける力(電磁力): 物語の後半は、役割を反転させます。電流が磁場から受ける力、すなわち「電磁力」の大きさを計算する法則を学びます。
- フレミングの左手の法則: 電磁力の「向き」を決定するための、強力で有名なツールである「フレミングの左手の法則」をマスターします。
- 平行な直線電流間にはたらく力: これまでに学んだ法則を総動員し、2本の平行な電流が互いに力を及ぼし合う現象を解析します。
- モーターの回転原理: 本モジュールの集大成として、電磁力がどのようにして回転運動を生み出し、現代文明に不可欠な「モーター」を駆動させるのか、その基本原理を解き明かします。
このモジュールを修了したとき、あなたは電気と磁気が織りなす、このダイナミックで相互作用的な世界の法則を理解していることでしょう。それは、単に別々の現象を学ぶのではなく、自然界のより深い統一性へと至る、知的探求の新たな扉を開く経験となるはずです。
1. 磁石と磁場、磁力線
私たちの多くが、幼い頃に磁石で遊んだ経験を持っているでしょう。鉄のクリップを離れた場所から引き寄せたり、二つの磁石を近づけたときに反発したり、引き合ったりする不思議な力。電磁気学の物語を、この身近で直感的な「磁気」の世界から始めることにしましょう。
このセクションでは、磁石が持つ基本的な性質を整理し、その力が働く空間を記述するための「磁場 (magnetic field)」という概念を導入します。さらに、目に見えない磁場を視覚的に捉えるための強力なツールである「磁力線 (magnetic lines of force)」の定義と、その性質について詳しく見ていきます。これは、後の電流と磁場の関係を学ぶ上での、重要な基礎となります。
1.1. 磁石の基本性質
- 磁極 (Magnetic Poles):磁石が最も強く鉄などを引きつける部分は、通常その両端にあり、これを磁極と呼びます。磁石を自由に回転できるように吊るすと、常に地球の南北を指すことから、北を指す側をN極 (North pole)、南を指す側をS極 (South pole) と名付けられました。
- 磁極間の力:電気における正負の電荷の関係と非常によく似た法則が、磁極間にも成り立ちます。
- 異なる種類の磁極(N極とS極)は、互いに引き付けあう(引力)。
- 同じ種類の磁極(N極とN極、S極とS極)は、互いに反発しあう(斥力)。
- 磁極の単独存在の否定:ここに、電気との決定的な違いがあります。正電荷や負電荷は単独で存在できますが、N極だけ、あるいはS極だけの磁石(磁気単極子、モノポール)は、これまでのところ自然界で発見されていません。どんなに強力な棒磁石を真ん中で二つに割っても、決してN極とS極を分離することはできず、そこにはN極とS極を持つ二つの小さな磁石が生まれるだけです。この事実は、磁気の起源が電気とは根本的に異なることを示唆しています。
1.2. 磁場(磁界)の概念
磁石は、直接触れ合っていなくても、離れた場所にある鉄や他の磁石に力を及ぼすことができます。この「遠隔作用」を説明するために、静電気学で「電場」を導入したのと全く同じ思想で、「磁場(じば)」または「磁界(じかい)」という概念を導入します。
磁場 (Magnetic Field) とは、磁石や電流の周りに存在する、磁気的な力が働く空間の性質のことです。
- Step 1: 磁場を作る: まず、源となる磁石(や後で学ぶ電流)が、それ自身の周りの空間の性質を変化させ、磁場を作り出す。
- Step 2: 磁場から力を受ける: 次に、その磁場が存在する空間に、別の磁石(方位磁針など)や鉄片を置くと、それらは自分が置かれた「場所」の磁場から直接力を受ける。
磁場の強さと向きを表す物理量には、磁場 \(H\) と磁束密度 \(B\) の2種類があり、文脈によって使い分けられますが、大学受験物理の範囲、特に真空中や空気中を扱う場合には、両者は実質的に同じものと考えて差し支えありません。通常は磁束密度 \(B\) を用いることが多く、これを単に「磁場」と呼ぶのが一般的です。
磁束密度 \(B\) はベクトル量であり、大きさと向きを持っています。その単位は「テスラ (Tesla, T)」です。また、磁束の単位「ウェーバ (Wb)」を用いて、Wb/m² と表されることもあります。
磁場の向きは、その場所に置かれた方位磁針のN極が指す向きと定義されます。
1.3. 磁力線 (Magnetic Lines of Force)
電場を視覚化するために電気力線を用いたように、目に見えない磁場の様子を視覚化するために「磁力線」という仮想的な線を用います。これは、磁場の中に砂鉄をまいたときに見られる模様を、より理想化し、法則化したものです。
【磁力線の定義と性質】
- 接線の向き: 磁力線上の任意の点において、その点に引いた接線の向きが、その点における磁場の向き(方位磁針のN極が指す向き)と一致する。
- 線の密度: 磁力線に垂直な単位面積を貫く**線の本数(密度)が、その点における磁場の強さ(大きさ)**に比例する。磁場が強い場所では磁力線は密に、弱い場所では疎になります。
これらの定義から、磁力線には以下の重要な性質が導かれます。
- N極から出て、S極に入る: 磁力線は、磁石の外部では、N極から出発し、S極へと向かいます。
- 閉じたループを形成する: 電気力線が正電荷で始まり負電荷で終わるのに対し、磁力線は途切れることがありません。磁石の内部では、S極からN極へと向かい、外部の線とつながって、必ず**閉じたループ(閉曲線)**を形成します。これは、磁気単極子が存在しないことの直接的な現れです。
- 交差したり、分岐したりしない: もし磁力線が交わると、その点での磁場の向きが複数存在することになり、物理的に矛盾します。したがって、磁力線は決して交わりません。
- 互いに反発しあう: 同じ向きに走る磁力線は、互いに押し合うようにして広がる性質があります。
【棒磁石と馬蹄形磁石の例】
- 棒磁石: N極から出た磁力線は、大きく弧を描いてS極に戻ってきます。極に近いほど磁場は強く、磁力線は密になります。
- 馬蹄形磁石: N極とS極が向かい合っている部分では、磁力線はN極からS極へと向かう、ほぼ平行で等間隔な線となります。これは、その隙間に比較的強い、一様な磁場が形成されていることを示しています。
この磁力線というツールは、後に電流が作る複雑な磁場の形を直感的に理解する上で、非常に大きな助けとなります。次のセクションから、いよいよこの磁場が、実は電流によっても作り出されるという、電磁気学の核心へと迫っていきます。
2. 電流の磁気作用(右ねじの法則)
19世紀初頭まで、科学者たちは電気と磁気を、それぞれ独立した別の物理現象として研究していました。しかし1820年、デンマークの物理学者ハンス・クリスティアン・エルステッド (Hans Christian Ørsted) は、講義中に歴史的な発見をします。それは、電流を流した導線の近くに置いた方位磁針が、ピクッと振れるという現象でした。
この偶然の発見は、電流がその周りに磁場を作り出すという、それまで誰も予期しなかった、電気と磁気の間の深遠な関係性を初めて明らかにしたものでした。この「電流の磁気作用」の発見こそ、電磁気学という新たな学問分野の幕開けを告げる号砲となったのです。
このセクションでは、電流が磁場を生み出すというこの根源的な原理と、その磁場の「向き」を決定するための、極めて重要で実用的なルールである「右ねじの法則」について学びます。
2.1. エルステッドの発見
エルステッドが行った実験は、非常にシンプルなものでした。
- セットアップ: まっすぐな導線の下に、導線と平行になるように方位磁針を置きます。
- 実験: 導線に電流を流します。
- 観察: すると、それまで地磁気を指して静止していた方位磁針のN極が、導線に対して垂直な方向へと、ぐるりと向きを変えたのです。電流の向きを逆にすると、方位磁針が振れる向きもまた、逆になりました。
この実験が示した結論は、疑いようのないものでした。
電流は、磁石がなくとも、それ自身の力で周りの空間に磁場を発生させる。
方位磁針が振れたということは、その場所に磁場が存在する証拠です。そして、その磁場の源は、他ならぬ「電流」だったのです。さらに、方位磁針が導線と垂直な方向を向いたことから、電流が作る磁場は、電流の向きとも、電流からの距離の向きとも異なる、円を描くような特殊な向きを持つことが示唆されました。
2.2. 右ねじの法則(アンペールの右手の法則)
電流が作る磁場の向きは、一見すると複雑です。しかし、フランスの物理学者アンドレ=マリ・アンペールは、この向きを決定するための、非常にエレガントで直感的な法則を発見しました。日本では一般的に「右ねじの法則」として知られていますが、「アンペールの右手の法則」とも呼ばれます。
【直線電流の場合】
まっすぐな導線に電流が流れている場合、その周りにできる磁場の向きは、以下の手順で決定できます。
- 右手の親指を、電流の向きに合わせる。
- そのとき、残りの4本の指が、導線を握るようにして巻く向きが、その場所での**磁場の向き(磁力線の向き)**となる。
この法則から、直線電流の周りの磁力線は、電流が流れる導線を中心とする、同心円状になることがわかります。
【円形電流(コイル)の場合】
導線を円形に巻いたコイルに電流を流す場合にも、右ねじの法則を応用できますが、親指と4本指の役割を逆にすると、より分かりやすくなります。
- 右手の4本の指を、円形のコイルを流れる電流の向きに合わせる。
- そのとき、自然に伸びた親指が指す向きが、コイルの中心を貫く磁場の向きとなる。
この法則は、後に学ぶソレノイドコイルが作る磁場の向きを判断する際にも、全く同じように適用できます。
2.3. 法則の適用のポイント
- 右手を使う: 必ず右手を使ってください。左手を使うと、向きが全て逆になってしまいます。
- ねじのアナロジー: この法則が「右ねじ」と呼ばれるのは、木にねじを打ち込むときの動きと対応しているからです。
- ねじが進む方向 ⇔ 電流の向き
- ねじを回す方向 ⇔ 磁場の向き電流の向きにねじが進むように回すと、その回転方向が磁場の向きと一致します。自分が使いやすい方のアナロジーで覚えると良いでしょう。
右ねじの法則は、電磁気学を学ぶ上で、フレミングの法則と並んで最も基本的で、最も頻繁に使うツールの一つです。この法則は、単に向きを覚えるための暗記法ではありません。それは、三次元空間における電流と磁場の、ベクトルとしての幾何学的な関係性を、私たちの身体感覚と結びつけて理解するための、極めて洗練された方法論なのです。
次のセクションからは、この法則で向きを定めた磁場の「強さ」を、具体的な電流の形状について、どのように計算していくかを学んでいきます。
3. 直線電流が作る磁場の計算(アンペールの法則)
エルステッドの発見と右ねじの法則によって、私たちは直線電流がその周りに同心円状の磁場を作ること、そしてその向きを決定する方法を学びました。次のステップは、その磁場の「強さ」、すなわち磁束密度 \(B\) の大きさを、定量的に計算することです。
この問題に理論的な解決を与えたのが、フランスの物理学者アンペールです。彼は、電流とその周りに生じる磁場の関係を一般化した「アンペールの法則 (Ampère’s law)」を発見しました。この法則は、電場におけるガウスの法則に相当する、磁場に関する積分法則であり、大学の電磁気学では中心的な役割を果たします。
大学受験物理では、アンペールの法則そのものを積分形で扱うことはありませんが、その法則から導かれる、無限に長い直線電流が作る磁場の公式は、必ずマスターしておかなければならない最重要項目の一つです。
3.1. 無限に長い直線電流が作る磁場の公式
真空中に置かれた、無限に長いまっすぐな導線に、大きさ \(I\) [A] の直流電流が流れている場合を考えます。
この導線から、垂直に距離 \(r\) [m] だけ離れた点 P における磁場の強さ(磁束密度) \(B\) [T] は、
\[ B = \frac{\mu_0 I}{2\pi r} \]
と表されます。
【公式の各要素の解説】
- \(B\) (磁場の強さ):この式が与えるのは、点 P における磁場の「大きさ」です。向きは、右ねじの法則によって決定されます(点 P における同心円状の磁力線の接線方向)。
- \(I\) (電流):磁場の強さは、その源である電流の大きさ \(I\) に比例します。電流が2倍になれば、磁場も2倍になります。これは直感的にも理解しやすい関係です。
- \(r\) (距離):磁場の強さは、電流が流れる導線からの距離 \(r\) に反比例します。導線に近いほど磁場は強く、遠ざかるほど弱くなります。電場や重力が距離の「2乗」に反比例したのとは異なり、直線電流の磁場は「1乗」に反比例するという点は、特徴的な違いとして意識しておきましょう。
- \(2\pi\):分母に \(2\pi r\) という項が現れるのは、この問題が持つ「円筒対称性」を反映しています。\(2\pi r\) は、半径 \(r\) の円周の長さに他なりません。
- \(\mu_0\) (真空の透磁率):\(\mu_0\)(ミュー・ゼロと読む)は、「真空の透磁率 (permeability of free space)」と呼ばれる、電磁気学における基本的な物理定数です。これは、真空という空間が、どれだけ「磁化されやすいか」、あるいは「磁力線を通しやすいか」を表す指標です。静電気学における「真空の誘電率 \(\epsilon_0\)」の、磁気における対応物と考えることができます。その値は、国際単位系(SI)において、歴史的な経緯から正確に\[ \mu_0 = 4\pi \times 10^{-7} , [N/A^2 \text{ または } H/m] \]と定義されています。この定義値に \(4\pi\) が含まれているため、公式の分母にある \(2\pi\) と部分的に相殺され、計算がしやすくなるように配慮されています。
3.2. アンペールの法則の概念的理解
この公式 \(B = \mu_0 I / (2\pi r)\) は、どのようにして導かれるのでしょうか。その根底にあるのがアンペールの法則です。
アンペールの法則(積分形)は、
「任意の閉じたループ(アンペール閉路)に沿って磁場 \(B\) を一周積分した値は、そのループを貫く電流の総和 \(I_{in}\) に、真空の透磁率 \(\mu_0\) を掛けたものに等しい」
というものです。
これを直線電流の場合に適用してみましょう。
- アンペール閉路を選ぶ: 対称性から、電流を中心とする半径 \(r\) の円をアンペール閉路として選びます。
- 磁場の性質: この円周上では、磁場の強さ \(B\) はどこでも等しく、その向きは常に円の接線方向を向いています。
- 積分を実行する: 磁場 \(B\) と閉路の向きが常に平行なので、一周積分は単純な掛け算になります。(磁場の強さ \(B\)) × (閉路の長さ \(2\pi r\))
- 法則を適用する: アンペールの法則によれば、この値が、ループを貫く電流 \(I\) に \(\mu_0\) を掛けたものに等しくなります。\[ B \times (2\pi r) = \mu_0 I \]
- 公式を導く: この式を \(B\) について解くと、\[ B = \frac{\mu_0 I}{2\pi r} \]となり、おなじみの公式が導かれます。
この導出プロセスは、電場におけるガウスの法則の適用と非常によく似た論理構造を持っています。どちらも、対称性の高い系について、積分法則を利用して場を簡単に求めるという、物理学の強力な思考パターンを示しています。
3.3. 計算例
問題: 20A の電流が流れている、非常に長い直線導線から 10cm の距離にある点の磁場の強さを求めよ。
- 単位の換算:
- \(I = 20 , A\)
- \(r = 10 , cm = 0.10 , m\)
- \(\mu_0 = 4\pi \times 10^{-7} , N/A^2\)
- 公式に代入:\[ B = \frac{\mu_0 I}{2\pi r} = \frac{(4\pi \times 10^{-7}) \times 20}{2\pi \times 0.10} \]
- 計算:\(2\pi\) と \(4\pi\) が約分できることに注目します。\[ B = \frac{2 \times 10^{-7} \times 20}{0.10} = \frac{40 \times 10^{-7}}{1 \times 10^{-1}} = 40 \times 10^{-6} = 4.0 \times 10^{-5} , [T] \]
このように、公式を正しく理解し、適用することで、直線電流が作る磁場の強さを定量的に評価することができます。この基本公式は、後の重ね合わせの問題や、電流間に働く力の計算など、様々な場面で基礎として用いられます。
4. 円形電流が作る磁場の計算
直線電流と並んで、電磁気学で非常に重要となるもう一つの基本的な電流の形状が、「円形電流(円形コイル)」です。導線を円形に巻いて電流を流すと、その中心軸上、特に中心点には、特徴的な磁場が形成されます。
この円形電流が作る磁場は、ソレノイドコイルの原理の基礎となるだけでなく、物質の磁性が原子レベルでの電子の円運動(円電流)に由来するという、よりミクロな物理モデルを理解する上でも、重要な示唆を与えてくれます。
このセクションでは、円形電流がその中心に作る磁場の強さを計算する公式を学び、それがどのように導かれるのか、その物理的な意味を探ります。
4.1. 円形電流が中心に作る磁場の公式
真空中に置かれた、半径 \(a\) [m] の円形の導線(1巻きのコイル)に、大きさ \(I\) [A] の直流電流が流れている場合を考えます。
この円形電流が、その円の中心点 O に作る磁場の強さ(磁束密度) \(B\) [T] は、
\[ B = \frac{\mu_0 I}{2a} \]
と表されます。
【公式の各要素の解説】
- \(B\) (磁場の強さ):この式が与えるのは、あくまで円の中心点における磁場の大きさです。中心からずれると、磁場の強さはこれより弱くなり、計算も複雑になります。大学受験物理では、ほとんどの場合、中心点での磁場のみが問われます。向きは、右ねじの法則(4本指を電流の向きに合わせると、親指が磁場の向きを示す)によって決定されます。磁場は、コイルの面に垂直に、紙面を貫く向きとなります。
- \(I\) (電流):直線電流の場合と同様に、磁場の強さは電流の大きさ \(I\) に比例します。
- \(a\) (半径):磁場の強さは、円の半径 \(a\) に反比例します。コイルが小さいほど、中心の磁場は強くなります。直線電流の場合と異なり、分母に \(\pi\) が含まれていない点に注意が必要です。
- \(\mu_0\) (真空の透磁率):空間の磁気的な性質を表す定数です。
【N回巻きコイルの場合】
もし、同じ半径の円形導線をN回、密に巻いたコイル(N巻きの円形コイル)であれば、各巻きが作る磁場が中心で強めあいます。重ね合わせの原理により、磁場の強さは単純にN倍になります。
\[ B = N \times \frac{\mu_0 I}{2a} = \frac{\mu_0 NI}{2a} \]
4.2. 公式の導出(ビオ・サバールの法則からの示唆)
この公式は、より一般的な「ビオ・サバールの法則 (Biot-Savart law)」から導出されます。ビオ・サバールの法則は、電流の微小な部分 \(I d\vec{l}\) が、ある点に作る微小な磁場 \(d\vec{B}\) を与える法則であり、アンペールの法則よりもさらに根源的な法則とされています。
その詳細な計算は大学レベルとなりますが、ここではその考え方のエッセンスを見てみましょう。
- 円周を微小部分に分割:円形電流の円周を、非常に短い長さ \(\Delta l\) のたくさんの直線部分に分割して考えます。
- 各微小部分が作る磁場:それぞれの微小な直線電流 \(I \Delta l\) が、中心点 O に磁場を作ります。ビオ・サバールの法則によれば、この微小な磁場の大きさは、\(I \Delta l\) に比例し、距離 \(a\) の2乗に反比例します。また、電流の向きと中心へ向かう方向は常に垂直なので、寄与は最大になります。
- 磁場の向き:右ねじの法則を各微小部分に適用すると、どの部分が作る磁場も、中心点 O においては、全て同じ向き(コイルの面を垂直に貫く向き)を向くことがわかります。
- 全磁場の計算(重ね合わせ):中心点 O での合成磁場は、全ての微小部分が作る磁場のスカラー和(向きが同じなので)となります。つまり、全ての \(\Delta l\) が作る磁場を足し合わせればよいのです。\(\sum \Delta l\) は、円周全体の長さ \(2\pi a\) に他なりません。
この「円周上の全ての点からの寄与が、中心で強めあう」という性質が、直線電流の場合とは異なる \(B = \mu_0 I / (2a)\) という公式の形を生み出しています。直線電流では、電流の各部分からの距離が異なるため、単純な足し算にはなりません。
4.3. 直線電流の公式との比較
円形電流と直線電流の公式は、形が似ているため混同しやすいですが、その違いを意識することが重要です。
電流の形状 | 中心(または距離r)の磁場 \(B\) | 特徴 |
無限長直線電流 | \(B = \frac{\mu_0 I}{2\pi r}\) | 分母に \(\boldsymbol{\pi}\) と距離 \(r\) がある |
円形電流(中心) | \(B = \frac{\mu_0 I}{2a}\) | 分母に \(\boldsymbol{\pi}\) がなく、半径 \(a\) がある |
この違いは、問題の対称性(円筒対称性か、軸対称性か)の違いを反映しています。公式を適用する際には、自分が今どちらの形状を扱っているのかを明確に意識し、正しい公式を選択するように注意しましょう。
円形コイルは、モーターや発電機、電磁石など、多くの電磁気的な装置の基本要素です。その中心に生じる磁場の性質を理解することは、これらの応用技術の原理を学ぶ上での第一歩となります。
5. ソレノイドコイルが作る磁場
直線電流、円形電流に続き、私たちが学ぶべき第三の重要な電流の形状が、「ソレノイドコイル (solenoid coil)」、あるいは単に「ソレノイド」です。ソレノイドとは、長い円筒状の心材に、導線を密に、そして何重にも巻きつけたコイルのことです。
ソレノイドの最大の特長は、その内部に、非常に強く、そして広範囲にわたってほぼ一様な磁場を作り出すことができる点にあります。この性質は、実験室で精密な磁場環境を作り出したり、電磁石やリレーといった部品の心臓部として機能したりと、科学技術の様々な場面で応用されています。
このセクションでは、理想的なソレノイドが作る磁場の特徴と、その強さを計算するための公式について学びます。
5.1. ソレノイドの構造と作る磁場
ソレノイドは、円形電流を多数、同じ軸上に並べて直列に接続したものと考えることができます。
- 各円形コイルは、右ねじの法則に従い、その中心軸に沿った向きに磁場を作ります。
- ソレノイド内部では、隣り合うコイルが作る磁場が次々と足し合わされ、互いに強めあいます。
- 一方、ソレノイドの外部では、コイルの上面を流れる電流と下面を流れる電流が作る磁場が、互いに打ち消しあうように働くため、磁場は非常に弱くなります。
その結果、理想的なソレノイド(直径に比べて長さが十分に長いソレノイド)が作る磁場には、以下のような特徴が生まれます。
- 内部の磁場:
- コイルの端を除く、中央部分の広い領域で、磁場はほぼ一様(場所によらず強さと向きが一定)になります。
- 磁場の向きは、ソレノイドの中心軸に平行です。
- 磁力線は、内部では密で、平行な直線群として描かれます。
- 外部の磁場:
- 磁場は内部に比べて非常に弱く、理想的な無限長ソレノイドでは、外部の磁場はゼロであると見なせます。
この「内部にだけ、強く一様な磁場を閉じ込める」という性質が、ソレノイドを極めて有用な装置にしているのです。
5.2. ソレノイド内部の磁場の公式
理想的な無限長ソレノイドの内部に作られる、一様な磁場の強さ(磁束密度) \(B\) [T] は、
\[ B = \mu_0 n I \]
と表されます。
【公式の各要素の解説】
- \(B\) (磁場の強さ):これは、ソレノイド内部の一様な磁場の大きさです。
- \(\mu_0\) (真空の透磁率):もしソレノイドの内部が、真空ではなく比誘電率 \(\mu_r\) の物質(鉄心など)で満たされている場合は、\(\mu = \mu_r \mu_0\) を用いて \(B = \mu n I\) となります。
- \(I\) (電流):磁場の強さは、コイルに流す電流の大きさ \(I\) に比例します。
- \(n\) (単位長さあたりの巻数):これがソレノイドの公式に特有の、最も重要なパラメータです。\(n\) は、コイル全体の総巻数 \(N\) を、ソレノイドの長さ \(L\) で割ったものです。\[ n = \frac{N}{L} \]\(n\) の単位は [回/m](メートルあたりの巻数)となります。磁場の強さは、この「巻線の密度」に比例します。同じ長さでも、より細かく、より密に巻いたコイルほど、強い磁場を生成することができます。公式 \(B = \mu_0 n I\) には、ソレノイドの半径(太さ)が含まれていないことに注目してください。理想的なソレノイドでは、内部の磁場の強さは、その太さによらないのです。
【磁場の向き】
ソレノイド全体の磁場の向きは、円形電流の場合と同様に、右ねじの法則で決定できます。
右手の4本指を、導線を流れる電流の向きに合わせると、親指がソレノイド内部の磁場の向き(N極側)を指します。
5.3. 公式の導出(アンペールの法則の応用)
このシンプルな公式 \(B = \mu_0 n I\) もまた、アンペールの法則からエレガントに導出することができます。
- アンペール閉路を選ぶ:ソレノイドの軸を垂直に横切るような、長方形の閉路(a-b-c-d)を考えます。
- 辺 a-b はソレノイドの内部にあり、長さは \(l\) とする。
- 辺 c-d はソレノイドの外部にある。
- 辺 b-c と d-a は、ソレノイドの側面を貫く。
- 閉路に沿った磁場の積分を計算する:
- a→b: 磁場 \(B\) と経路の向きが平行なので、積分値は \(B \times l\)。
- b→c と d→a: 磁場 \(B\) の向き(軸方向)と経路の向きが垂直なので、積分値はゼロ。
- c→d: ソレノイドの外部なので、磁場はゼロと見なせる。積分値はゼロ。
- したがって、閉路を一周したときの積分の値は、\(Bl\) のみとなります。
- 閉路を貫く電流を計算する:
- 長方形の閉路の内部には、たくさんの導線が紙面を貫いています。
- 単位長さあたりの巻数が \(n\) なので、長さ \(l\) の辺 a-b の部分には、\(n \times l\) 回の巻数が存在します。
- それぞれの巻線に電流 \(I\) が流れているので、この閉路を貫く電流の総和は、\((nl) \times I\) となります。
- アンペールの法則を適用する:\[ (\text{磁場の積分値}) = \mu_0 \times (\text{貫く電流の総和}) \]\[ Bl = \mu_0 (nlI) \]
- 公式を導く:両辺の \(l\) を消去すると、\[ B = \mu_0 n I \]という、おなじみの公式が導かれます。
ソレノイドは、一様な電場を作る平行平板コンデンサーと対をなす、一様な磁場を作るための基本装置です。この二つの理想的な装置の性質を理解しておくことは、電磁気学の様々な現象を分析する上での標準的なモデルとして、非常に重要です。
6. 磁場の重ね合わせの原理
これまでに、直線電流、円形電流、ソレノイドコイルといった、基本的な電流の形状が作る磁場について学んできました。しかし、実際の状況では、複数の電流が同時に存在し、それらが作る磁場が互いに影響を及ぼしあうことがほとんどです。
例えば、2本の平行な導線にそれぞれ電流が流れている場合、ある点での磁場はどうなるのでしょうか?このような問いに答えるのが、「磁場の重ね合わせの原理 (principle of superposition for magnetic fields)」です。これは、電場の場合と全く同じ考え方であり、複雑な状況をより単純な要素の組み合わせとして分析するための、極めて強力な思考のツールです。
6.1. ベクトル和としての重ね合わせの原理
磁場における重ね合わせの原理は、以下のように述べられます。
重ね合わせの原理: 複数の電流が存在するとき、空間のある点における合成磁場は、それぞれの電流が単独でその点に作る磁場のベクトル和に等しい。
磁場 \(\vec{B}\) は、大きさと向きを持つベクトル量です。したがって、複数の磁場を合成する際には、単に大きさを足し合わせるのではなく、ベクトルとして正しく足し算(ベクトル和)を行わなければなりません。
数式で表現すると、\(n\) 個の電流源(\(I_1, I_2, \dots, I_n\))が存在する場合、ある点 P における合成磁場 \(\vec{B}_{total}\) は、各電流源 \(I_i\) が単独で点 P に作る磁場を \(\vec{B}_i\) として、
\[ \vec{B}_{total} = \vec{B}_1 + \vec{B}_2 + \dots + \vec{B}n = \sum{i=1}^{n} \vec{B}_i \]
と表されます。
この原理が成り立つのは、磁場を記述する基本法則(ビオ・サバールの法則やアンペールの法則)が線形であるためです。これにより、私たちは複雑な磁場の問題を、個々の電流が作る基本的な磁場の問題に分解し、それらの結果を後からベクトル的に合成するという、系統的なアプローチを取ることが可能になります。
6.2. 重ね合わせの計算手順
合成磁場を求めるための具体的な計算手順は、電場の場合と同様です。
- 各磁場の計算:
- まず、それぞれの電流源(\(I_1, I_2, \dots\))が、注目している点 P に単独で作る磁場ベクトル \(\vec{B}_1, \vec{B}_2, \dots\) を、一つ一つ求めます。
- 大きさ: 各磁場の大きさ \(|B_i|\) は、電流の形状に応じた公式(直線電流なら \(B = \mu_0 I / (2\pi r)\)、円形電流なら \(B = \mu_0 I / (2a)\) など)を用いて計算します。
- 向き: 各磁場の向きは、右ねじの法則を適用して決定します。
- ベクトル和の計算:
- 計算した全ての磁場ベクトル \(\vec{B}_1, \vec{B}_2, \dots\) を、ベクトルとして足し合わせます。
- ベクトルの合成には、幾何学的な作図法(平行四辺形の法則など)や、各ベクトルを座標成分に分解して成分ごとに足し合わせる成分計算法が用いられます。多くの場合、成分計算の方が機械的で間違いが少なくなります。
6.3. 具体例:2本の平行な直線電流が作る磁場
重ね合わせの原理の応用として、非常に重要な例を見てみましょう。
問題: 紙面に垂直に、2本の無限長直線導線 A と B が、距離 \(2d\) だけ離れて置かれている。Aには紙面の裏から表へ向かう向きに電流 \(I_A\)、Bには同じ向きに電流 \(I_B\) が流れている。AとBの中点 M における合成磁場の大きさと向きを求めよ。
- 各磁場の計算:
- 導線Aが中点Mに作る磁場 \(\vec{B}_A\):
- 距離: \(r_A = d\)
- 大きさ: \(B_A = \frac{\mu_0 I_A}{2\pi d}\)
- 向き: 右ねじの法則を適用すると、電流が表向きなので、中点 M では下向き(Bの方向)となる。
- 導線Bが中点Mに作る磁場 \(\vec{B}_B\):
- 距離: \(r_B = d\)
- 大きさ: \(B_B = \frac{\mu_0 I_B}{2\pi d}\)
- 向き: 右ねじの法則を適用すると、中点 M では上向き(Aの方向)となる。
- 導線Aが中点Mに作る磁場 \(\vec{B}_A\):
- ベクトル和の計算:
- 中点 M では、\(\vec{B}_A\) と \(\vec{B}_B\) は、一直線上で互いに逆向きです。
- したがって、合成磁場 \(\vec{B}_M\) の大きさは、2つの磁場の大きさの単純な引き算になります。\[ B_M = |B_A – B_B| = \left| \frac{\mu_0 I_A}{2\pi d} – \frac{\mu_0 I_B}{2\pi d} \right| = \frac{\mu_0}{2\pi d} |I_A – I_B| \]
- 合成磁場の向きは、\(I_A\) と \(I_B\) のうち、大きい方の電流が作る磁場の向きになります。
- もし \(I_A > I_B\) ならば、\(B_A > B_B\) なので、合成磁場は下向き。
- もし \(I_B > I_A\) ならば、\(B_B > B_A\) なので、合成磁場は上向き。
- もし \(I_A = I_B\) ならば、\(B_A = B_B\) なので、合成磁場はゼロになります。
【もし電流の向きが逆だったら?】
もし、導線Bの電流 \(I_B\) が紙面の表から裏へ向かう逆向きだった場合、導線Bが作る磁場 \(\vec{B}_B\) の向きは、右ねじの法則により、中点Mでは下向き(Aが作る磁場と同じ向き)になります。
この場合、合成磁場の大きさは、2つの磁場の大きさの足し算になります。
\[ B_M = B_A + B_B = \frac{\mu_0 I_A}{2\pi d} + \frac{\mu_0 I_B}{2\pi d} = \frac{\mu_0}{2\pi d} (I_A + I_B) \]
向きは、両方とも下向きなので、合成磁場も下向きです。
このように、磁場の重ね合わせの問題では、各電流が作る磁場の「向き」を右ねじの法則で正確に決定し、それらがベクトルとしてどのように合成されるか(強めあうのか、弱めあうのか、あるいは特定の成分が打ち消されるのか)を、幾何学的に正しく判断することが、正解への鍵となります。
7. 磁場中の電流が受ける力(電磁力)
これまでのセクションでは、物語の前半、「電流が磁場を作る」という側面(電流の磁気作用)について学んできました。ここからは物語の後半、役割を反転させ、「電流が磁場から力を受ける」という側面について探求していきます。
磁場の中に置かれた導線に電流を流すと、その導線は磁場から力を受け、動き出そうとします。この力のことを「電磁力 (electromagnetic force)」と呼びます。この力こそが、モーターを回転させ、スピーカーを振動させる、現代技術の根幹をなす力です。その本質は、後に学ぶ、個々の荷電粒子が磁場から受ける「ローレンツ力」の、集団的な現れです。
このセクションでは、磁場中を流れる電流が受ける電磁力の「大きさ」を計算するための基本公式を学びます。
7.1. 電磁力の基本公式
一様な磁場(磁束密度 \(B\) [T])の中に、磁場と垂直に置かれた、長さ \(L\) [m] のまっすぐな導線があり、そこに大きさ \(I\) [A] の電流が流れている、という最もシンプルな状況を考えます。
このとき、導線が磁場から受ける電磁力 \(F\) [N] の大きさは、
\[ F = IBL \]
と表されます。
【公式の各要素の解説】
- \(F\) (電磁力):導線の長さ \(L\) の部分が受ける力の総量です。
- \(I\) (電流):力の大きさは、流れる電流の大きさ \(I\) に比例します。大電流ほど、大きな力を受けます。
- \(B\) (磁場の強さ):力の大きさは、その場所の磁場の強さ \(B\) に比例します。強い磁場ほど、大きな力を及ぼします。
- \(L\) (導線の長さ):力の大きさは、磁場の中にある導線の長さ \(L\) に比例します。長く磁場に浸かっている部分ほど、大きな力を受けます。
この \(F=IBL\) というシンプルな形は、電流・磁場・導線長が互いに直交する、最も基本的な状況を表しています。
7.2. 磁場と電流が垂直でない場合
では、電流の向きと磁場の向きが、常に垂直であるとは限りません。もし、電流 \(I\) の向きと、磁場 \(\vec{B}\) の向きが、角度 \(\theta\) をなしている場合はどうなるのでしょうか。
この場合、電磁力の発生に寄与するのは、電流に垂直な磁場の成分だけである、と考えることができます。磁場 \(\vec{B}\) を、電流に平行な成分 \(B_{||} = B \cos\theta\) と、電流に垂直な成分 \(B_{\perp} = B \sin\theta\) に分解します。
- 平行な成分 \(B_{||}\) は、力の発生には寄与しません。
- 垂直な成分 \(B_{\perp}\) のみが、力の発生に寄与します。
したがって、力の大きさ \(F\) は、基本公式の \(B\) を、この垂直成分 \(B_{\perp}\) に置き換えることで得られます。
\[ F = I (B_{\perp}) L = I (B \sin\theta) L \]
これを整理したものが、電磁力の一般公式です。
\[ F = IBL \sin\theta \]
【\(\sin\theta\) の意味】
- \(\theta = 90^\circ\) (電流と磁場が垂直) のとき:\(\sin 90^\circ = 1\) なので、力は最大となり、\(F = IBL\) となります。
- \(\theta = 0^\circ\) または \(180^\circ\) (電流と磁場が平行または反平行) のとき:\(\sin 0^\circ = \sin 180^\circ = 0\) なので、力はゼロになります。電流が磁場と平行に流れている場合、電磁力は働きません。
- それ以外の角度では、力は \(0\) と \(IBL\) の間の値をとります。
7.3. ベクトルによる表現(外積)
この電磁力の大きさと向き(向きについては次章で学びます)は、大学物理で学ぶベクトルの「外積(クロス積)」を用いると、一つの式でエレガントに表現できます。
電流が流れる方向と長さを持つベクトルを \(\vec{L}\) とすると、電磁力ベクトル \(\vec{F}\) は、
\[ \vec{F} = I (\vec{L} \times \vec{B}) \]
と書くことができます。外積の大きさの定義が \(|\vec{L} \times \vec{B}| = LB \sin\theta\) であるため、これは力の大きさを正しく与えます。また、外積の向きの定義(右ねじの法則に従う)が、力の向きを正しく与えることになります。これは、次章で学ぶフレミングの左手の法則と等価な内容です。
7.4. 電磁力の起源
なぜ、磁場中の電流は力を受けるのでしょうか?
その根源的な理由は、電流の正体である荷電粒子(電子)の運動にあります。
- 電流が流れているということは、多数の電子が導線内を一定の平均速度で運動しているということです。
- 運動する個々の電子は、磁場から「ローレンツ力」という力を受けます。
- 導線全体が受ける電磁力は、この無数の電子が受けるローレンツ力の合力として現れるのです。
このローレンツ力については、Module 6でさらに詳しく学びます。ここでは、マクロな現象としての「電磁力」の大きさが、\(F = IBL\sin\theta\) という式で計算できることを、まずはしっかりとマスターすることが重要です。次のステップは、この力の「向き」を決定する方法です。
8. フレミングの左手の法則
前セクションで、磁場の中にある電流が受ける力(電磁力)の「大きさ」が、\(F = IBL\sin\theta\) で計算できることを学びました。しかし、力はベクトル量であり、その効果を完全に理解するためには、「向き」を決定することが不可欠です。
この電磁力の向きを、直感的かつ確実に決定するために用いられるのが、イギリスの物理学者ジョン・アンブローズ・フレミングによって考案された「フレミングの左手の法則 (Fleming’s left-hand rule)」です。これは、右ねじの法則と並び、電磁気学における最も有名で、最も実用的な「手の法則」の一つです。
8.1. 法則の使い方
フレミングの左手の法則は、互いに直交する3つの物理量、電流 (Current)、磁場 (Magnetic Field)、そして力 (Force) の間の、三次元的な方向関係を示します。
法則を適用するには、以下の手順に従って、左手を特定の形にセットします。
- まず、左手を用意します。(右手と間違えないように注意してください!)
- 親指、人差し指、中指の3本を、互いに直角になるように開きます。まるでピストルのような形を作るイメージです。
- それぞれの指に、以下の物理量を対応させます。
- 人差し指: 磁場(磁束密度 \(B\))の向きに合わせる。(N極からS極へ向かう向き)
- 中指: 電流(\(I\))の向きに合わせる。(正電荷が流れる向き)
- このとき、親指が指す向きが、導線が受ける力(電磁力 \(F\))の向きとなります。
【覚え方のヒント】
この対応関係を覚えるための、有名な語呂合わせがあります。
- 「電・磁・力」(でん・じ・りょく)
- でん (電流 I) → 中指
- じ (磁場 B) → 人差し指
- りょく (力 F) → 親指
この順番で、中指から人差し指、親指へと対応させると覚えやすいでしょう。
8.2. 法則適用の具体例
状況: 紙面の奥から手前に向かって一様な磁場 \(\vec{B}\) がかかっている空間に、水平に置かれた導線がある。この導線に、右向きに電流 \(I\) を流す。導線が受ける力の向きはどちらか?
- 左手を準備する: 左手で、親指・人差し指・中指が直角になる形を作ります。
- 人差し指を磁場の向きに:磁場は「奥から手前」なので、人差し指を自分の顔に向けるように、紙面から突き出す向きにセットします。
- 中指を電流の向きに:電流は「右向き」なので、中指が右を指すように手首を回転させます。(このとき、人差し指の向きは変えないように注意)
- 親指の向きを確認する:正しくセットできると、親指は自然と上向きを指しているはずです。
- 結論:したがって、導線が受ける電磁力の向きは「上向き」です。
8.3. 法則の物理的な意味
フレミングの左手の法則は、単なる便利な暗記法ではありません。それは、ベクトルとしての力、電流、磁場の間の数学的な関係、すなわち外積の関係を、私たちの身体を使って表現したものです。
前述のように、電磁力ベクトル \(\vec{F}\) は、電流ベクトル \(\vec{I}\)(向きは電流の向き、大きさはI)と磁場ベクトル \(\vec{B}\) の外積 \(\vec{F} \propto \vec{I} \times \vec{B}\) として定義されます。ベクトル外積の向きは、一般的に「右ねじの法則」で定義されます(\(\vec{I}\) から \(\vec{B}\) へとねじを回したときにねじが進む向き)。
フレミングの「左手」の法則は、この数学的な外積の定義と完全に等価な結果を与えます。なぜ右手ではなく左手なのかというと、歴史的に電流の向きを「正電荷の流れ」と定義したのに対し、力の原因となるローレンツ力が、実際に動いている「負電荷の電子」に働く力を基にしていることなど、いくつかの物理的・歴史的経緯が関係しています。
しかし、実用上は、この背景に深入りする必要はありません。
- 電流が磁場を「作る」とき → 右手の法則(右ねじ)
- 電流が磁場から力を「受ける」とき → 左手の法則(フレミング)この使い分けを明確に意識し、それぞれの法則を正確に適用できることが、電磁気の問題を解く上で極めて重要です。
この法則を使いこなすことで、次セクションの平行電流間の力の向きや、最終セクションのモーターの回転原理を、直感的かつ正確に理解することができるようになります。
9. 平行な直線電流間にはたらく力
私たちは、これまでに2つの重要な法則を学びました。
- 電流は、その周りに磁場を作る(右ねじの法則)。
- 磁場の中にある電流は、その磁場から力を受ける(フレミングの左手の法則)。
この2つの法則を組み合わせると、非常に興味深く、また重要な結論が導き出されます。それは、「2本の平行な導線にそれぞれ電流を流すと、それらの導線間には力が働く」というものです。互いに触れ合ってもいない導線同士が、電流を流すだけで力を及ぼし合うのです。
この現象は、電流の定義(アンペア)の基礎ともなっており、電磁気学の基本原理がどのように相互作用を生み出すかを示す、絶好の例と言えます。
9.1. 現象のメカニズム
なぜ、平行な電流間に力が働くのでしょうか?そのメカニズムは、2段階のプロセスとして考えることができます。
状況: 2本の平行な導線 A と B があり、それぞれに電流 \(I_A\) と \(I_B\) が流れているとします。導線Bが受ける力を考えてみましょう。
- Step 1: 導線Aが磁場を作る
- まず、導線Aに流れる電流 \(I_A\) が、その周りの空間全体に磁場 \(\vec{B}_A\) を作ります(右ねじの法則)。
- この磁場は、当然、もう一方の導線Bが存在する場所にも及んでいます。
- Step 2: 導線Bがその磁場から力を受ける
- 導線Bは、それ自身が流している電流 \(I_B\) を持ちながら、導線Aが作った磁場 \(\vec{B}_A\) の中に置かれていることになります。
- 「磁場の中にある電流は力を受ける」ので、導線Bは、磁場 \(\vec{B}_A\) から電磁力 \(\vec{F}_B\) を受けます。この力の向きは、フレミングの左手の法則で決まります。
つまり、電流間に働く力は、直接的な相互作用ではなく、一方の電流が作った磁場を介して、もう一方の電流に力が伝わるという、近接作用の考え方で説明されるのです。
もちろん、作用・反作用の法則により、同時に導線Aも、導線Bが作る磁場 \(\vec{B}_B\) から、大きさが等しく向きが逆の力 \(\vec{F}_A\) を受けます。
9.2. 力の向き:平行電流は引き合い、反平行電流は反発する
では、力の具体的な向きはどうなるのでしょうか。これは、右ねじの法則とフレミングの左手の法則を連続して適用することで、簡単に導き出せます。
ケース1:電流が同じ向き(平行)の場合
- Step 1 (磁場を作る): 導線Aの電流 \(I_A\) が、導線Bの位置に作る磁場 \(\vec{B}_A\) の向きは?
- 右ねじの法則を適用すると、磁場は紙面の奥から手前に向かう向きになります。
- Step 2 (力を受ける): 電流 \(I_B\) が、この磁場 \(\vec{B}_A\) から受ける力 \(\vec{F}_B\) の向きは?
- フレミングの左手の法則を適用します。
- 人差し指(磁場)を、紙面の奥から手前へ。
- 中指(電流)を、上向きへ。
- すると、親指(力)は、左向き、すなわち導線Aの方向を指します。
- フレミングの左手の法則を適用します。
- 結論: 導線Bは、導線Aに引き寄せられます。作用・反作用により、導線Aも導線Bに引き寄せられます。したがって、同じ向きに流れる平行な電流は、互いに引き合う(引力が働く)。
ケース2:電流が逆向き(反平行)の場合
- Step 1 (磁場を作る): 導線Aの電流 \(I_A\) が、導線Bの位置に作る磁場 \(\vec{B}_A\) の向きは、ケース1と同じく、紙面の奥から手前に向かう向きです。
- Step 2 (力を受ける): 逆向きの電流 \(I_B\) が、この磁場 \(\vec{B}_A\) から受ける力 \(\vec{F}_B\) の向きは?
- フレミングの左手の法則を適用します。
- 人差し指(磁場)を、紙面の奥から手前へ。
- 中指(電流)を、下向きへ。
- すると、親指(力)は、右向き、すなわち導線Aから遠ざかる方向を指します。
- フレミングの左手の法則を適用します。
- 結論: 導線Bは、導線Aから反発します。したがって、逆向きに流れる平行な電流は、互いに反発しあう(斥力が働く)。
この「平行は引力、反平行は斥力」という関係は、静電気における「異符号は引力、同符号は斥力」という関係とは逆になっており、興味深い対比をなしています。
9.3. 力の大きさの計算
力の大きさを計算してみましょう。
導線A(電流 \(I_A\))と導線B(電流 \(I_B\))が、距離 \(r\) だけ離れて平行に置かれているとします。
- 導線Aが作る磁場の大きさ:導線Bの位置における、導線Aが作る磁場の大きさ \(B_A\) は、直線電流の公式より、\[ B_A = \frac{\mu_0 I_A}{2\pi r} \]
- 導線Bが受ける力の大きさ:この磁場 \(B_A\) の中で、電流 \(I_B\) が流れる導線Bが受ける力を考えます。電流の向きと磁場の向きは常に垂直なので、電磁力の公式 \(F=IBL\) を使います。導線Bの長さ \(L\) の部分が受ける力 \(F_B\) の大きさは、\[ F_B = I_B \cdot B_A \cdot L = I_B \left( \frac{\mu_0 I_A}{2\pi r} \right) L = \frac{\mu_0 I_A I_B L}{2\pi r} \]
この式は、導線の長さ \(L\) に比例するため、しばしば「単位長さあたりに働く力」 \(f = F/L\) の形で表されます。
\[ f = \frac{F_B}{L} = \frac{\mu_0 I_A I_B}{2\pi r} \]
この公式は、2つの電流の積に比例し、距離に反比例することを示しています。この関係は、1アンペアの定義にも用いられています(「1m離れた2本の平行導線に同じ電流を流したとき、単位長さあたりに \(2 \times 10^{-7} N\) の力が働くときの電流を1Aとする」)。
この平行電流間の力の解析は、本モジュールで学んだ知識の、見事な応用例となっています。
10. モーターの回転原理
これまでに学んだ電磁気学の法則、特に「電流が磁場から力を受ける」という電磁力の原理は、私たちの現代文明を根底から支える、ある重要な装置を生み出しました。それが「モーター (motor)」、すなわち電動機です。モーターは、電気エネルギーを、回転という機械的なエネルギー(仕事)に変換する装置であり、扇風機、洗濯機、電車、電気自動車など、身の回りのありとあらゆる場所で活躍しています。
このセクションでは、本モジュールの集大成として、これまでの知識を総動員し、最もシンプルな直流モーターが、なぜ、そしてどのようにして回転するのか、その基本原理を解き明かしていきます。
10.1. 基本構造と力の発生
最も基本的な直流モーターは、以下の要素から構成されます。
- 磁石(界磁): 強力な磁場を作り出すための永久磁石、または電磁石。N極とS極が向かい合っており、その間に一様な磁場 \(\vec{B}\) が形成されています。
- コイル(電機子): 磁場の中で回転する部分。ここでは、一巻きの長方形のコイル abcd を考えます。このコイルに電流 \(I\) が流されます。
- 整流子 (Commutator) と ブラシ (Brush): コイルに電流を供給し、かつ、回転の途中で電流の向きを切り替えるための巧妙な仕組み。
まず、コイルの辺abと辺cdに働く力に注目してみましょう。
- 辺ab: 電流 \(I\) は、aからbの向きに流れています。磁場 \(\vec{B}\) は、N極からS極へ向かう向きです。
- フレミングの左手の法則を適用します。
- 人差し指(磁場)をN→Sの向きに。
- 中指(電流)をa→bの向きに。
- すると、親指(力)は下向きを指します。
- 辺abには、下向きの電磁力 \(\vec{F}_{ab}\) が働きます。
- フレミングの左手の法則を適用します。
- 辺cd: 電流 \(I\) は、cからdの向きに流れています。これは、辺abの電流とは逆向きです。
- 同様に、フレミングの左手の法則を適用します。
- 人差し指(磁場)はN→Sの向きのまま。
- 中指(電流)をc→dの向きに。
- すると、親指(力)は上向きを指します。
- 辺cdには、上向きの電磁力 \(\vec{F}_{cd}\) が働きます。
- 同様に、フレミングの左手の法則を適用します。
- 辺bcと辺da:これらの辺では、電流の向きが磁場の向きと平行または反平行になる部分があるため、働く力は回転には寄与しないか、あるいは軸方向の力となって互いに打ち消しあいます。
10.2. トルク(力のモーメント)の発生と回転
コイルの辺abには下向きの力が、辺cdには上向きの力が働きます。この、大きさが等しく、向きが逆で、作用線がずれている一対の力を「偶力 (couple)」と呼びます。
偶力は、物体を並進運動させることはありませんが、物体を回転させる効果を持ちます。この回転させる能力のことを、「トルク (torque)」または「力のモーメント」と呼びます。
この偶力によるトルクによって、コイルは中心軸の周りを回転し始めるのです。これが、モーターが回転する基本的な原理です。
トルクの大きさは、コイルが回転する角度によって変化します。
- コイルの面が磁場と平行なとき(力が最大にかかるとき)、トルクは最大になります。
- コイルの面が磁場と垂直になったとき、力の向きはコイルを回転させる方向ではなく、単に引き伸ばす方向になるため、トルクはゼロになります。
10.3. 整流子の役割:回転を維持するための工夫
もし、コイルに流れる電流の向きが常に一定だとすると、どうなるでしょうか。
コイルが半回転して、辺abが上側に、辺cdが下側に来た瞬間を考えてみましょう。
- 辺ab(上側)の電流の向きは変わらないので、フレミングの法則により、今度は上向きの力を受けます。
- 辺cd(下側)も同様に、下向きの力を受けます。
この力は、コイルを元の位置に引き戻そうとする向きに働きます。つまり、コイルは半回転したところで逆向きのトルクを受けてしまい、行ったり来たりの振動をするだけで、一方向に回転し続けることができません。
そこで登場するのが、「整流子」と「ブラシ」です。
- 整流子: コイルの末端に接続された、二つに割れた金属のリングです。コイルと共に回転します。
- ブラシ: 電源に接続され、回転する整流子に接触して電流を供給する、固定された導体(通常は炭素(グラファイト)製)です。
【整流のメカニズム】
- コイルが回転し、ちょうど垂直になる(トルクがゼロになる)瞬間、ブラシが整流子の隙間の部分に接触します。これにより、コイルに流れる電流が一瞬だけ途切れます。
- コイルは、それまでの勢い(慣性)で、このトルクゼロの点を通り過ぎます。
- コイルが半回転を超えると、それまで辺abに接続されていた整流子の片割れが、今度はマイナス側のブラシに、辺cdに接続されていた方がプラス側のブラシに、それぞれ接触します。
- その結果、コイルの辺abを流れる電流の向きと、辺cdを流れる電流の向きが、ちょうど逆転するのです。
この巧妙な仕組みにより、
- 常にコイルの上側にある辺には下向きの力が、
- 常にコイルの下側にある辺には上向きの力が、働き続けることになります。
これにより、トルクは常に同じ方向に作用し続け、コイルは一方向に連続して回転することができるのです。
モーターの原理は、本モジュールで学んだ「電流が作る磁場」と「磁場が電流に及ぼす力」という、電磁気学の二大原理が見事に融合し、実用的な「動き」へと昇華された、感動的な応用例と言えるでしょう。
Module 5:電流と磁場の総括:統一性の発見とダイナミックな相互作用
本モジュールにおいて、私たちは物理学の世界観を根底から変える、歴史的な発見の旅を追体験しました。それは、長らく別々の現象と見なされてきた「電気」と「磁気」が、実は分かちがたく結びついているという、深遠な統一性の発見です。その架け橋となったのが、電荷の運動、すなわち「電流」でした。
旅の前半、私たちは「電流が磁場を作る」という、エルステッドによって見出された根源的な事実から出発しました。右ねじの法則という強力なツールを手に、直線、円形、そしてソレノイドという基本的な形状の電流が、その周りにどのような磁場を、どれだけの強さで形成するのかを学びました。これは、静的な電荷が電場を生み出すのと同様に、動的な電流が磁場という新たな場を生成するという、自然の対称性を示すものでした。
そして旅の後半、私たちは物語の視点を反転させ、「磁場が電流に力を及ぼす」という、もう一つの核心的な原理へと進みました。フレミングの左手の法則に導かれ、磁場という舞台の上で、電流という役者が「電磁力」という名の力を受けて、どのように振る舞うのかを解析しました。平行な電流が、互いに磁場を介して力を及ぼし合う様は、この相互作用のダイナミズムを象徴していました。
モジュールのクライマックスとして、私たちはこれらの法則全てが一体となって機能する、最も感動的な応用例の一つである「モーター」の回転原理を解き明かしました。そこでは、電流が磁場を作り、その磁場が別の電流に力を及ぼす、という二重の相互作用ではなく、外部から与えられた磁場の中で電流が力を受けてトルクを生み、整流子という巧妙な仕組みによって連続的な回転運動へと昇華される様を見ました。これは、電気エネルギーという抽象的な概念が、いかにして私たちの目に見える「動き」へと変換されるかを示す、テクノロジーの奇跡の縮図です。
このモジュールを終えた今、私たちは電気と磁気を、もはや別々のものとして捉えることはありません。運動する電荷は磁場を生み、磁場は運動する電荷に影響を与える。この絶え間ない相互作用の連鎖こそが、「電磁気」という、より統一された、よりダイナミックな物理世界の姿なのです。ここで得た洞察は、次なる「ローレンツ力」や、究極の統一理論である「マクスウェル方程式」への理解を深めるための、不可欠な礎となるでしょう。