【基礎 物理(力学)】Module 7:衝突と反発係数

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本モジュールの目的と構成

Module 6では、衝突や分裂といった「相互作用」を分析するための普遍的な法則として、運動量保存則を確立しました。この法則は、相互作用の前後で系の運動量の総和が不変であるという、極めて強力な洞察を与えてくれます。しかし、実際に衝突問題を解こうとすると、多くの場合、運動量保存則だけでは解を完全に決定できないという壁に突き当たります。衝突後の物体の速度という二つの未知数に対し、方程式が一つしかないためです。

この壁を打ち破り、衝突現象の完全な予測を可能にするための、最後の、そして決定的なピースが、本モジュールで学ぶ**反発係数(はねかえり係数)**です。反発係数 \(e\) は、衝突の「激しさ」や「弾力性」を特徴づける、0から1までの単純な数値です。スーパーボールのように良く弾む衝突なのか、粘土のようにくっついてしまう衝突なのかを、この一つの数値が表現します。

このモジュールでは、まず反発係数を厳密に定義し、その値によって衝突がどのように分類されるか(弾性衝突、非弾性衝突、完全非弾性衝突)を学びます。そして、力学における二大原理、運動量保存則と、この反発係数の式を連立させることで、あらゆる二体衝突問題の解を体系的に導き出す、普遍的なアルゴリズムを構築します。

  1. 反発係数(はねかえり係数)の定義: 衝突の「弾み具合」を定量化する反発係数を、相対速度の比として厳密に定義します。
  2. 弾性衝突(e=1)と力学的エネルギー保存: 反発係数が1である理想的な弾性衝突が、力学的エネルギーが完全に保存される衝突と等価であることを証明します。
  3. 非弾性衝突(0<e<1)とエネルギー損失: 現実世界の多くの衝突である非弾性衝突では、力学的エネルギーが熱や音に変換され、失われることを学びます。
  4. 完全非弾性衝突(e=0)と合体現象: 反発係数が0である完全非弾性衝突では、物体が合体し、エネルギー損失が最大になることを見ます。
  5. 一直線上の二体衝突問題の解法: 運動量保存則と反発係数の式を連立させ、一次元衝突を解くためのマスターアルゴリズムを確立します。
  6. 斜め衝突における反発係数の適用: 二次元の斜め衝突において、反発係数が衝突面に垂直な成分にのみ適用されるという、応用的な考え方を学びます。
  7. 壁との衝突における速度変化: 壁を質量が無限大の物体と見なすことで、跳ね返りの速度を驚くほどシンプルに記述します。
  8. 床への繰り返しバウンドとエネルギー減衰: ボールが床で繰り返しバウンドする運動を、反発係数を用いて解析し、エネルギーが指数関数的に減衰していく様子を追います。
  9. 衝突における運動量保存則と反発係数の連立: 衝突問題を支配する二つの方程式(系の法則としての運動量保存則、物性の法則としての反発係数)の役割を再確認し、その連携を深く理解します。
  10. 反発係数から見たエネルギー損失率の計算: 反発係数 \(e\) の値から、衝突によってどれだけの割合の運動エネルギーが失われるのかを定量的に計算します。

このモジュールを修了したとき、あなたは運動量保存則という片翼だけでなく、反発係数というもう一方の翼を手に入れているでしょう。この両翼を広げることで、あなたは衝突という複雑な現象の空を、自信を持って、そして自由自在に飛翔することができるようになるのです。


目次

1. 反発係数(はねかえり係数)の定義

衝突現象を分析する上で、運動量保存則は系の運動の前後関係を縛る、極めて重要な法則です。しかし、それだけではパズルは完成しません。衝突後の各物体の速度を決定するためには、衝突そのものの「性質」を記述する、もう一つの物差しが必要になります。その役割を果たすのが反発係数 (Coefficient of Restitution)、またははねかえり係数です。

反発係数(記号: \(e\))は、衝突における「弾力性」の度合い、すなわち、どれだけ勢いよく跳ね返るかを定量的に示す、無次元の数値です。その定義は、衝突前後の相対速度に基づいています。

1.1. 相対速度に基づく定義

二つの物体1と2が、一直線上で衝突する状況を考えます。

  • 衝突前の速度: \(v_1, v_2\)
  • 衝突後の速度: \(v_1′, v_2’\)

衝突前に、二つの物体がどれだけの速さで互いに近づいているか(あるいは遠ざかっているか)を示すのが、接近の相対速さです。これは、相対速度の大きさ \(|v_1 – v_2|\) で与えられます。

同様に、衝突後に、二つの物体がどれだけの速さで互いに遠ざかっているか(あるいは近づいているか)を示すのが、遠離の相対速さ \(|v_1′ – v_2’|\) です。

反発係数 \(e\) は、これら二つの相対速さのとして定義されます。

反発係数の定義

\[ e = \frac{(\text{衝突後の相対速さ})}{(\text{衝突前の相対速さ})} = \frac{|v_1′ – v_2’|}{|v_1 – v_2|} \]

この定義から、\(e\) は以下の性質を持つことがわかります。

  • 無次元量: 速度の比なので、単位を持ちません。
  • 値の範囲: 衝突によって相対速さが増加することはないため、\(e\) の値は通常0から1の間になります (\(0 \le e \le 1\))。この値は、衝突する物体の材質や形状、温度などによって決まる、実験的な量です。

1.2. 計算に便利な形式(マイナス符号付きの定義)

上記の定義は物理的な意味は明快ですが、絶対値記号が含まれているため、実際の計算には少し不便です。そこで、一次元衝突の問題を解く際には、これと等価で、より機械的に適用できる、以下の形式が一般的に用いられます。

反発係数の式(一次元衝突用)

\[ e = – \frac{v_1′ – v_2′}{v_1 – v_2} \]

この式は、絶対値を外す代わりに、右辺にマイナス符号をつけたものです。衝突が起こるためには、通常、物体は互いに接近する(例:\(v_1 > v_2\))ので分母は正、衝突後は互いに遠ざかる(例:\(v_1′ < v_2’\))ので分子 \(v_1′ – v_2’\) は負となります。このため、マイナス符号をつけることで、\(e\) が正の値として定義されます。

この式を、衝突後の速度について整理した、以下の形で覚えておくと、問題を解く上で非常に便利です。

反発係数の式の応用形

\[ v_1′ – v_2′ = -e(v_1 – v_2) \]

この式は、**「衝突後の相対速度は、衝突前の相対速度の \(-e\) 倍になる」**という、簡潔で美しい関係を示しています。

この一次方程式と、運動量保存則の一次方程式を連立させることで、二つの未知数(\(v_1′, v_2’\))を解くことができるのです。


1.3. 反発係数eの値が示す衝突の種類

反発係数 \(e\) の具体的な値によって、衝突はその性質を劇的に変えます。

  • \(e=1\) : 弾性衝突 (Elastic Collision)
    • 衝突後の相対速さが、衝突前の相対速さと完全に等しい(\(|v_1′ – v_2’| = |v_1 – v_2|\))状態。
    • これは、最もよく「弾む」理想的な衝突であり、後のセクションで学ぶように、力学的エネルギーが保存される衝突と等価です。
  • \(0 < e < 1\) : 非弾性衝突 (Inelastic Collision)
    • 衝突後の相対速さが、衝突前の相対速さよりも小さくなる状態。
    • 現実世界で起こる、ほとんどの衝突がこのカテゴリーに含まれます。
    • 衝突の過程で、力学的エネルギーの一部が熱や音、物体の変形エネルギーに変換され、失われます
  • \(e=0\) : 完全非弾性衝突 (Perfectly Inelastic Collision)
    • 衝突後の相対速さがゼロ(\(v_1′ – v_2′ = 0 \Rightarrow v_1′ = v_2’\))になる状態。
    • これは、衝突後に二つの物体が合体して一体となって運動することを意味します。
    • 力学的エネルギーの損失が、運動量保存則の制約の下で最大となる衝突です。

反発係数は、衝突という複雑な現象の物理的性質を、たった一つの数値に凝縮して表現する、エレガントで強力な概念です。この物差しを手に入れたことで、私たちはあらゆる種類の衝突を、統一的な枠組みの中で分析する準備が整いました。


2. 弾性衝突(e=1)と力学的エネルギー保存

衝突の分類の中で、最も理想的で、物理学的に特別な位置を占めるのが弾性衝突 (Elastic Collision) です。弾性衝突とは、反発係数が最大値である \(e=1\) となる衝突です。

この衝突がなぜ特別なのか。それは、弾性衝突においては、系の力学的エネルギー(運動エネルギー)が、衝突の前後で完全に保存されるからです。つまり、エネルギーの損失が一切ない、完璧な「跳ね返り」が実現するのです。

このセクションでは、\(e=1\) という条件と、力学的エネルギーが保存されるという条件が、数学的に完全に等価であることを証明します。これにより、弾性衝突の問題に対しては、反発係数の式の代わりに、エネルギー保存則を適用することも可能であることがわかります。

2.1. 二つの法則の連立

一次元の弾性衝突を考えます。この衝突は、以下の二つの法則によって完全に記述されます。

法則A:運動量保存則

(これは、あらゆる衝突で成立する)

\[ m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1′ + m_2 v_2′ \quad \cdots ① \]

法則B:弾性衝突の条件 (e=1)

\[ v_1′ – v_2′ = -(v_1 – v_2) \quad \cdots ② \]

2.2. \(e=1\) ⇒ エネルギー保存 の証明

まず、「もし衝突が弾性衝突(\(e=1\))であるならば、運動エネルギーは保存される」ことを証明します。

  1. 式の変形:証明しやすいように、①と②の式を、各物体の項でまとめます。
    • ①より: \( m_1 (v_1 – v_1′) = m_2 (v_2′ – v_2) \quad \cdots ①’ \)
    • ②より: \( v_1 + v_1′ = v_2 + v_2′ \quad \cdots ②’ \)(②’の導出:\(v_1′ – v_2′ = -v_1 + v_2 \Rightarrow v_1 + v_1′ = v_2 + v_2’\))
  2. 式の乗算:①’の両辺と、②’の両辺を、それぞれ掛け合わせます。(左辺) × (左辺) = (右辺) × (右辺)\[ m_1 (v_1 – v_1′)(v_1 + v_1′) = m_2 (v_2′ – v_2)(v_2′ + v_2) \]
  3. 因数分解公式の適用:\((a-b)(a+b) = a^2 – b^2\) の公式を適用すると、\[ m_1 (v_1^2 – v_1’^2) = m_2 (v_2’^2 – v_2^2) \]
  4. エネルギーの形への整理:この式を展開し、衝突前(添字なし)と衝突後(’付き)の項に整理し直します。\( m_1 v_1^2 – m_1 v_1’^2 = m_2 v_2’^2 – m_2 v_2^2 \)\( m_1 v_1^2 + m_2 v_2^2 = m_1 v_1’^2 + m_2 v_2’^2 \)最後に、両辺に \(1/2\) を掛けると、\[ \frac{1}{2}m_1 v_1^2 + \frac{1}{2}m_2 v_2^2 = \frac{1}{2}m_1 v_1’^2 + \frac{1}{2}m_2 v_2’^2 \]これは、\(K_i = K_f\)、すなわち運動エネルギー保存則の式に他なりません。

2.3. エネルギー保存 ⇒ \(e=1\) の証明

逆に、「もし運動エネルギーが保存されるならば、その衝突は弾性衝突(\(e=1\))である」ことも証明できます。これは、上記の証明のステップを逆向きにたどることで可能です。(ただし、\(v_1 \neq v_1’\) などの自明でない衝突を仮定する必要があります。)


2.4. 結論と実践的な意味

証明によって、以下の重要な事実が確立されました。

弾性衝突の同値条件

衝突が弾性衝突であること (\(e=1\)) と、その衝突において力学的エネルギーが保存されること (\(K_i=K_f\)) は、完全に同値(等価)である。

この事実は、弾性衝突の問題を解く際に、二つの異なるアプローチを提供してくれます。

  • アプローチ1(推奨):運動量保存則と、反発係数の式(\(e=1\)の場合)を連立させる。\( \begin{cases} m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1′ + m_2 v_2′ \ v_1′ – v_2′ = -(v_1 – v_2) \end{cases} \)こちらは、二つの方程式が両方とも**一次式(線形)**であるため、計算が非常に簡単です。
  • アプローチ2:運動量保存則と、運動エネルギー保存則を連立させる。\( \begin{cases} m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1′ + m_2 v_2′ \ \frac{1}{2}m_1 v_1^2 + \frac{1}{2}m_2 v_2^2 = \frac{1}{2}m_1 v_1’^2 + \frac{1}{2}m_2 v_2’^2 \end{cases} \)こちらは、エネルギーの式が速度の二乗を含んでいるため、二次方程式となり、計算が煩雑になりがちです。

結論として、たとえ弾性衝突の問題であっても、エネルギー保存則を直接使うよりも、それと等価である反発係数の式(\(e=1\))を用いた方が、計算が格段に楽になるという、実践的な教訓が得られます。

弾性衝突は、エネルギーの散逸がない理想的な極限ですが、原子や素粒子の世界では、このようなエネルギーが保存される衝突が実際に起こっています。この理想的なモデルを理解することが、より現実的な非弾性衝突を理解するための、重要な基準点となるのです。


3. 非弾性衝突(0<e<1)とエネルギー損失

弾性衝突が、エネルギー損失のない理想的な世界の出来事だとすれば、非弾性衝突 (Inelastic Collision) は、私たちが日常的に経験する、より現実的な衝突の姿を映し出しています。ボールを地面に落とせば、元の高さまで跳ね返ってはこない。自動車が衝突すれば、車体はへこみ、大きな音と熱が発生する。これらの現象はすべて、非弾性衝突の現れです。

非弾性衝突は、反発係数が \(0 < e < 1\) の範囲にある衝突として定義されます。このセクションでは、この種の衝突において、力学的エネルギーがどのように失われるのか、そのメカニズムと計算方法について探求します。

3.1. 非弾性衝突の定義と特徴

  • 定義: 反発係数 \(e\) が、\(0\) より大きく \(1\) より小さい (\(0 < e < 1\)) 衝突。
  • 相対速度:反発係数の定義 \(e = |v_1′ – v_2’| / |v_1 – v_2|\) より、\(e<1\) であるということは、\[ |v_1′ – v_2’| < |v_1 – v_2| \]を意味します。すなわち、衝突後の遠離の相対速さは、衝突前の接近の相対速さよりも必ず小さくなります。衝突によって、跳ね返りの勢いが「なまる」わけです。
  • エネルギー:この「勢いの減少」は、系の力学的エネルギー(運動エネルギー)の減少と直接結びついています。衝突の過程で、運動エネルギーの一部が、熱、音、そして物体の塑性変形(元に戻らない変形)といった、他の形態のエネルギーに変換されてしまうのです。\[ K_i > K_f \]

3.2. エネルギー損失のメカニズム

なぜ、非弾性衝突ではエネルギーが失われるのでしょうか。その原因は、衝突中に物体内部で働く、複雑な非保存力にあります。

衝突の瞬間、物体は大きく変形します。

  • 弾性衝突の場合: この変形は、理想的なばねのように、完全に元に戻る弾性変形です。物体を圧縮するために与えられた仕事は、すべて位置エネルギーとして蓄えられ、再び運動エネルギーとして完全に解放されます。
  • 非弾性衝突の場合: 変形には、元に戻らない塑性変形が含まれます。粘土を押しつぶすのを想像してください。この変形の過程で、物体を構成する分子同士がずれ動き、内部的な摩擦が生じます。この内部摩擦が負の仕事をし、力学的エネルギーを熱エネルギーへと不可逆的に変換してしまうのです。また、物体の表面が振動することで音波が生まれ、エネルギーが音として外部に放出されることもあります。

これらのエネルギー散逸のプロセスは極めて複雑ですが、その総合的な結果を、反発係数 \(e\) というたった一つのパラメータで、現象論的にうまく表現することができるのです。


3.3. エネルギー損失の計算

非弾性衝突によって失われた力学的エネルギー \(\Delta E_{loss}\) は、衝突前の総運動エネルギー \(K_i\) と、衝突後の総運動エネルギー \(K_f\) の差として計算されます。

\[ \Delta E_{loss} = K_i – K_f \]

計算手順:

  1. 運動量保存則と反発係数の式を連立させて、衝突後の速度 \(v_1′, v_2’\) を求める。\( \begin{cases} m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1′ + m_2 v_2′ \ v_1′ – v_2′ = -e(v_1 – v_2) \end{cases} \)
  2. 求めた衝突後の速度を用いて、衝突後の総運動エネルギー \(K_f = \frac{1}{2}m_1 v_1’^2 + \frac{1}{2}m_2 v_2’^2\) を計算する。
  3. 衝突前の総運動エネルギー \(K_i = \frac{1}{2}m_1 v_1^2 + \frac{1}{2}m_2 v_2^2\) も計算する。
  4. これらの差をとって、\(\Delta E_{loss} = K_i – K_f\) を求める。

実践例

状況: 質量 2kg の球Aが右向きに 5 m/s で、質量 3kg の球Bが左向きに 2 m/s で、一直線上で衝突した。反発係数が \(e=0.5\) のとき、この衝突で失われたエネルギーを求めよ。

  1. 衝突後速度の計算: 右向きを正とする。\(v_A=5, v_B=-2\)。
    • 運動量保存: \(2(5) + 3(-2) = 2v_A’ + 3v_B’ \Rightarrow 4 = 2v_A’ + 3v_B’ \cdots ①\)
    • 反発係数: \(v_A’ – v_B’ = -0.5(5 – (-2)) = -3.5 \cdots ②\)②より \(v_A’ = v_B’ – 3.5\)。これを①に代入。\(4 = 2(v_B’ – 3.5) + 3v_B’ = 5v_B’ – 7 \Rightarrow 5v_B’ = 11 \Rightarrow v_B’ = 2.2 , \text{m/s}\)。\(v_A’ = 2.2 – 3.5 = -1.3 , \text{m/s}\)。
  2. 衝突前エネルギー \(K_i\) の計算:\(K_i = \frac{1}{2}(2)(5)^2 + \frac{1}{2}(3)(-2)^2 = 25 + 6 = 31 , \text{J}\)。
  3. 衝突後エネルギー \(K_f\) の計算:\(K_f = \frac{1}{2}(2)(-1.3)^2 + \frac{1}{2}(3)(2.2)^2 = 1.69 + 7.26 = 8.95 , \text{J}\)。
  4. エネルギー損失の計算:\(\Delta E_{loss} = K_i – K_f = 31 – 8.95 = 22.05 , \text{J}\)。衝突前の31Jの運動エネルギーのうち、約22J(約71%)が熱や音などに変換され、失われたことがわかります。

非弾性衝突の分析は、力学法則が理想的な世界だけでなく、エネルギーの散逸が起こる現実の世界にも、いかに強力に適用できるかを示す好例です。運動量保存則と反発係数という二つの道具を組み合わせることで、私たちはこの複雑な現象を、定量的に、かつ正確に記述することができるのです。


4. 完全非弾性衝突(e=0)と合体現象

非弾性衝突のスペクトルの中で、弾性衝突とは正反対の極に位置するのが完全非弾性衝突 (Perfectly Inelastic Collision) です。これは、反発係数が最小値である \(e=0\) となる衝突であり、最も「弾まない」、言い換えれば最も「くっつきやすい」衝突をモデル化したものです。

この種の衝突は、その終状態が非常にシンプルであるため、計算が容易であると同時に、エネルギー損失が最大になるという、物理的にも興味深い特徴を持っています。

4.1. 完全非弾性衝突の定義と物理的意味

  • 定義: 反発係数 \(e\) が、ゼロ (\(e=0\)) である衝突。
  • 物理的帰結:反発係数の式 \(v_1′ – v_2′ = -e(v_1 – v_2)\) に、\(e=0\) を代入してみましょう。\[ v_1′ – v_2′ = -0 \cdot (v_1 – v_2) = 0 \]\[ \therefore v_1′ = v_2′ \]この結果は、極めて重要な物理的意味を持っています。それは、衝突後、二つの物体の速度が等しくなる、ということです。つまり、完全非弾性衝突とは、衝突した二つの物体が合体し、一体となって運動する衝突に他なりません。この「合体 (coalescence)」という現象が、完全非弾性衝突を特徴づける最も重要なキーワードです。
  • :
    • 走行中の貨車が、静止している別の貨車に連結する。
    • 飛んできた粘土の塊が、壁にくっついて静止する。
    • 弾丸が木片に撃ち込まれ、一体となって飛んでいく。

4.2. 計算の単純化

物体が合体するという性質のおかげで、完全非弾性衝突の問題は、他の衝突問題に比べて計算が非常に単純になります。

衝突後の未知数は、合体した物体の共通の速度 \(V\) (\(=v_1’=v_2’\)) の一つだけです。

したがって、運動量保存則の式一本だけで、問題を解くことができます。反発係数の式を立てる必要さえありません。

一次元完全非弾性衝突の方程式:

\[ m_1 v_1 + m_2 v_2 = (m_1 + m_2)V \]

この式から、合体後の速度 \(V\) は、

\[ V = \frac{m_1 v_1 + m_2 v_2}{m_1 + m_2} \]

として、直ちに求めることができます。


4.3. エネルギー損失の最大化

完全非弾性衝突のもう一つの重要な特徴は、力学的エネルギーの損失が最大になるという点です。

なぜ最大になるのでしょうか?衝突のプロセスを考えてみましょう。

衝突中、物体は互いに押し合い、変形します。この変形によって、初期の運動エネルギーの一部が、弾性エネルギーのような形で一時的に蓄えられます。

  • 弾性衝突の場合: 蓄えられたエネルギーは、変形が元に戻る際に、100%運動エネルギーとして回収されます。
  • 非弾性衝突の場合: 蓄えられたエネルギーの一部が、塑性変形や熱になって失われ、残りが運動エネルギーとして回収されます。
  • 完全非弾性衝突の場合: 物体は合体し、互いに相対的な運動を完全にやめてしまいます。これは、変形から回復して互いを押し返すプロセスが全く起こらず、変形のために蓄えられたエネルギーが、最も効率的に熱や塑性変形エネルギーに変換された状態と解釈できます。

したがって、運動量保存則という絶対的な制約を守りつつ、可能な限り多くの運動エネルギーを他の形態のエネルギーに変換したのが、完全非弾性衝突なのです。

例:エネルギー損失の計算

Module 6, Section 7で計算したように、質量 \(m_1\) の物体が速さ \(v_1\) で静止した質量 \(m_2\) の物体に完全非弾性衝突した場合、失われるエネルギーは、

\[ \Delta E_{loss} = \frac{m_2}{m_1 + m_2} K_i \]

でした。

ここで、もし \(m_1 = m_2\) ならば、\(\Delta E_{loss} = \frac{1}{2}K_i\) となり、初期の運動エネルギーのちょうど半分が失われることがわかります。

注意点:重心運動のエネルギー

エネルギー損失が最大になると言っても、運動エネルギーが完全にゼロになるわけではありません(ただし、重心が静止している特別な場合を除く)。

衝突後の系の運動エネルギー \(K_f = \frac{1}{2}(m_1+m_2)V^2\) は、系全体の重心が運動し続けるためのエネルギーであり、これだけは運動量保存則によって失うことが許されません。失われるのは、重心運動に対する、物体間の相対運動のエネルギーなのです。

完全非弾性衝突は、衝突のスペクトルの一方の極限として、弾性衝突と美しい対比をなしています。この二つの理想的なモデルを理解することで、その間に広がる無数の非弾性衝突に対する、より深い洞察が得られるのです。


5. 一直線上の二体衝突問題の解法

これまでのセクションで、運動量保存則と反発係数という、衝突問題を解くための二つの強力な武器を手に入れました。このセクションでは、これらの武器を組み合わせて、一直線上(一次元)で起こる二体衝突の問題を、体系的かつ確実に解くための、**普遍的な手順(マスターアルゴリズム)**を確立します。

このアルゴリズムを身につければ、衝突が弾性であろうと非弾性であろうと、あるいは物体が合体しようとも、どのような一次元衝突問題に直面しても、冷静に、そして迷うことなく解き進めることができるようになります。

5.1. 一次元二体衝突のマスターアルゴリズム


【一次元二体衝突問題 解析アルゴリズム】

Step 1: 状況の図示と座標軸の設定

  • 問題文を読み、衝突前 (before) と衝突後 (after) の状況を、簡単な図として二つ描く。
  • 一直線上に、正の向きを一つ定める(通常は右向き)。これを矢印で明確に示す。
  • 各物体に質量(\(m_1, m_2\))と、衝突前後の速度(\(v_1, v_2, v_1′, v_2’\))を書き込む。

Step 2: 既知量と未知量の整理

  • 問題文で与えられている量(質量、初速度、反発係数 \(e\) など)を既知量としてリストアップする。
  • 求めるべき量(通常は衝突後の速度 \(v_1′, v_2’\))を未知数として明確にする。

Step 3: 運動量保存則の立式

  • 系の法則である、運動量保存則の式を立てる。\[ m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1′ + m_2 v_2′ \]
  • 最重要: 各速度を代入する際、Step 1で定めた正の向きと同じ向きなら正の値逆向きなら負の値として、符号を正しく反映させる。

Step 4: 反発係数の式の立式

  • 衝突の性質を表す、反発係数の式を立てる。\[ v_1′ – v_2′ = -e(v_1 – v_2) \]
  • こちらも、各速度の符号に注意して代入する。
  • 特殊ケースの判断:
    • 弾性衝突なら、\(e=1\) を代入。
    • **完全非弾性衝突(合体)**なら、この式の代わりに \(v_1′ = v_2’\) という条件を用いる(\(e=0\) を代入するのと同じ)。

Step 5: 連立方程式の求解

  • Step 3とStep 4で得られた、\(v_1’\) と \(v_2’\) を未知数とする、二本の一次連立方程式を解く。
  • 代入法や加減法など、標準的な数学の手法を用いて、\(v_1’\) と \(v_2’\) を求める。

Step 6: 結果の吟味

  • 得られた解(\(v_1′, v_2’\))の符号を吟味し、それが物理的にどのような運動(どちらの向きに進むか)を意味するのかを解釈する。

5.2. 実践シミュレーション

状況: 質量 3kg の球Aが右向きに 4 m/s で、質量 2kg の球Bが右向きに 1 m/s で進み、追突した。反発係数を \(e=0.5\) とする。衝突後のAとBの速度 \(v_A’, v_B’\) を求めよ。

アルゴリズムの適用

Step 1: 図示と座標軸

  • (before) →A(3kg, 4m/s) →B(2kg, 1m/s)
  • (after) →A(3kg, v_A’) →B(2kg, v_B’)
  • 右向きを正とする。

Step 2: 既知量と未知量

  • 既知量: \(m_A=3, m_B=2, v_A=4, v_B=1, e=0.5\)
  • 未知数: \(v_A’, v_B’\)

Step 3: 運動量保存則

\( m_A v_A + m_B v_B = m_A v_A’ + m_B v_B’ \)

\( (3)(4) + (2)(1) = 3v_A’ + 2v_B’ \)

\[ 14 = 3v_A’ + 2v_B’ \quad \cdots ① \]

Step 4: 反発係数の式

\( v_A’ – v_B’ = -e(v_A – v_B) \)

\( v_A’ – v_B’ = -0.5(4 – 1) \)

\[ v_A’ – v_B’ = -1.5 \quad \cdots ② \]

Step 5: 連立方程式の求解

②を変形して \(v_A’ = v_B’ – 1.5\) とし、これを①に代入する(代入法)。

\( 14 = 3(v_B’ – 1.5) + 2v_B’ \)

\( 14 = 3v_B’ – 4.5 + 2v_B’ \)

\( 18.5 = 5v_B’ \)

\[ \therefore v_B’ = 3.7 , \text{m/s} \]

この結果を、\(v_A’ = v_B’ – 1.5\) に代入する。

\( v_A’ = 3.7 – 1.5 \)

\[ \therefore v_A’ = 2.2 , \text{m/s} \]

Step 6: 結果の吟味

  • 衝突後、球Aの速度は \(v_A’ = 2.2 , \text{m/s}\)(右向き)。
  • 衝突後、球Bの速度は \(v_B’ = 3.7 , \text{m/s}\)(右向き)。両方とも正の値なので、衝突後も両球は右向きに進むことがわかる。衝突によって、速かったAが減速し、遅かったBが加速したという、物理的に妥当な結果が得られた。

このアルゴリズムは、一見複雑に見える衝突現象を、機械的で再現可能な手順に分解するためのものです。この手順を忠実に実行する訓練を積むことで、どんな数値や設定の問題であっても、自信を持って取り組むことができるようになります。


6. 斜め衝突における反発係数の適用

これまでの議論は、物体の運動が一直線上に限られる一次元衝突でした。しかし、現実の衝突は、ビリヤードのブレークショットのように、物体が様々な角度に散乱する二次元(平面)衝突、いわゆる斜め衝突が一般的です。

平面衝突の分析には、運動量保存則を成分分解して適用することをModule 6で学びました。では、反発係数は、このような斜め衝突において、どのように適用すればよいのでしょうか。ここには、一つ、極めて重要な原則があります。

6.1. 斜め衝突の基本原則

原則1:運動は「衝突面に平行な成分」と「垂直な成分」に分解して考える

斜め衝突を分析する際の最も重要な戦略は、速度ベクトルを、衝突が起こる接触面に平行な方向と、それに垂直な方向に分解することです。

特に、二つの球が衝突する場合、接触面に垂直な方向とは、衝突の瞬間に二つの球の中心を結ぶ直線方向(中心線方向)に他なりません。

原則2:反発係数は「中心線方向の速度成分」にのみ適用される

衝突の際に、物体同士が互いに力を及ぼし合う撃力は、主としてこの中心線方向に働きます。物体の速度を変化させ、跳ね返りを引き起こすのは、この方向の力です。

したがって、反発係数の式は、この中心線方向の速度成分に対してのみ、一次元衝突と全く同じ形で適用されます。

原則3:接触面に平行な方向の速度成分は変化しない

滑らかな物体の衝突を仮定すると、衝突の際に接触面に平行な方向(接線方向)には、力(摩擦力)は働きません。

力が働かないので、運動量-力積の定理(\(F \Delta t = \Delta p\))より、この方向の運動量は変化しません。

つまり、**各物体の、接触面に平行な方向の速度成分は、衝突の前後で全く変化しない(保存される)**のです。


6.2. 斜め衝突の解析アルゴリズム

これらの原則を基に、斜め衝突を解くためのアルゴリズムを構築します。


【斜め衝突 解析アルゴリズム】

Step 1: 座標軸の戦略的設定

  • 計算を最も簡単にするため、二つの球の中心を結ぶ方向(中心線方向)にx軸を、接触面に平行な方向(接線方向)にy軸をとる。
  • この座標系の設定が、この問題を解く上での最大の鍵である。

Step 2: 衝突前の速度を成分分解する

  • 衝突前の各物体の速度ベクトル \(\vec{v}1, \vec{v}2\) を、Step 1で設定したx-y座標系で、成分(\(v{1x}, v{1y}, v_{2x}, v_{2y}\))に分解する。

Step 3: y方向(接線方向)の運動を解く

  • この方向には力は働かないので、各物体の速度成分は変化しない。\[ v_{1y}’ = v_{1y} \]\[ v_{2y}’ = v_{2y} \]
  • これで、衝突後のy方向の速度成分は、直ちに確定する。

Step 4: x方向(中心線方向)の運動を解く

  • この方向の運動は、完全に一次元衝突と見なせる。
  • Module 7, Section 5のマスターアルゴリズムを、x成分の速度に対して適用する。
    1. 運動量保存則(x成分):\[ m_1 v_{1x} + m_2 v_{2x} = m_1 v_{1x}’ + m_2 v_{2x}’ \]
    2. 反発係数の式(x成分):\[ v_{1x}’ – v_{2x}’ = -e(v_{1x} – v_{2x}) \]
  • この二つの連立方程式を解き、衝突後のx方向の速度成分 \(v_{1x}’, v_{2x}’\) を求める。

Step 5: 衝突後の速度を再合成する

  • Step 3と4で求めた、衝突後のx成分とy成分を組み合わせる。
    • 物体1の衝突後の速度ベクトル: \(\vec{v}1′ = (v{1x}’, v_{1y}’)\)
    • 物体2の衝突後の速度ベクトル: \(\vec{v}2′ = (v{2x}’, v_{2y}’)\)
  • 必要であれば、これらの成分から、速度の大きさ(\(v’ = \sqrt{v_x’^2 + v_y’^2}\))と角度(\(\tan\theta = v_y’/v_x’\))を計算する。

6.3. 実践例:静止した球への斜め衝突

状況: 質量 \(m\) の球Aが速さ \(v_0\) で、静止していた同じ質量 \(m\) の球Bに、中心をずらして衝突した。衝突の瞬間、球Aの進行方向と、二つの球の中心を結ぶ線が、角度 \(\theta\) をなしていた。この衝突が弾性衝突(\(e=1\))であるとき、衝突後の二つの球の速度を求めよ。

  1. 座標軸: 中心線方向(衝突前のAの速度と角度\(\theta\)をなす方向)をx軸、それに垂直な方向をy軸とする。
  2. 衝突前速度の分解:
    • A: \(v_{Ax} = v_0 \cos\theta, v_{Ay} = v_0 \sin\theta\)
    • B: \(v_{Bx} = 0, v_{By} = 0\)
  3. y方向の運動:\(v_{Ay}’ = v_{Ay} = v_0 \sin\theta\)\(v_{By}’ = v_{By} = 0\)(球Bは、衝突によってx方向にしか力を受けないので、y方向には動かない。)
  4. x方向の運動(一次元弾性衝突):質量が等しい二つの物体が弾性衝突する場合、速度が交換されるという性質がある(Module 6, Section 3参照)。
    • 衝突前のx方向速度: Aは \(v_0\cos\theta\)、Bは \(0\)。
    • 衝突後のx方向速度: Aは \(0\)、Bは \(v_0\cos\theta\) になる。\[ v_{Ax}’ = 0 \]\[ v_{Bx}’ = v_0 \cos\theta \]
  5. 衝突後速度の再合成:
    • 球A:\(v_{Ax}’=0, v_{Ay}’=v_0 \sin\theta\)。衝突後の速さは \(v_A’ = v_0 \sin\theta\)、向きはy軸方向。
    • 球B:\(v_{Bx}’=v_0 \cos\theta, v_{By}’=0\)。衝突後の速さは \(v_B’ = v_0 \cos\theta\)、向きはx軸方向。

結果の解釈:

衝突後、球Aは接線方向(y軸)に、球Bは中心線方向(x軸)に運動する。二つの運動方向は直交している。これは、ビリヤードで「厚み半分」で当てたときに、手玉と的玉が90度の角度に分かれていく現象に対応しています。

斜め衝突は、一見すると複雑ですが、このように**「衝突方向に垂直な成分はそのまま、平行な成分だけが一次元衝突をする」**と分解してしまえば、本質的には既知の問題の組み合わせに過ぎないのです。


7. 壁との衝突における速度変化

これまでは、二つの運動する物体の間の衝突を考えてきました。では、ボールが壁や床に衝突するような場合は、どう考えればよいのでしょうか。

壁や床は、通常、地球と一体化しており、ボールに比べて圧倒的に巨大で重い物体と見なすことができます。この「質量が無限大の物体との衝突」という極限を考えることで、壁との衝突は、非常にシンプルな形で記述することができます。

7.1. 壁を「質量が無限大の物体」と見なす

壁を、質量 \(m_2 \to \infty\) で、静止している(\(v_2=0\))物体2とモデル化します。

ここに、質量 \(m_1\) のボールが、壁に垂直に速度 \(v_1\) で衝突する状況を考えます。

  • 運動量保存則の困難:運動量保存則を立てようとすると、\(m_2 v_2’\) の項が \(\infty \times 0\) の不定形となり、うまく機能しません。壁(地球)の速度は、ボールとの衝突ごときでは全く変化しない(\(v_2′ = v_2 = 0\))と考えるのが自然です。
  • 反発係数の式の有効性:一方、反発係数の式は、この状況を見事に解決してくれます。\[ v_1′ – v_2′ = -e(v_1 – v_2) \]ここに、壁の速度 \(v_2=0, v_2’=0\) を代入します。\( v_1′ – 0 = -e(v_1 – 0) \)ボールの速度を \(v_1=v, v_1’=v’\) と書き直すと、壁との垂直衝突における速度変化\[ v’ = -ev \]

7.2. 公式 v’ = -ev の物理的解釈

この驚くほどシンプルな公式は、壁との衝突の本質を捉えています。

  • 向き: マイナス符号は、衝突後に速度の向きが反転することを示しています。壁にぶつかれば、跳ね返ってくる、という当たり前の事実を数学的に表現しています。
  • 速さ: 衝突後の速さ \(|v’|\) は、衝突前の速さ \(|v|\) の \(e\) 倍になります。\[ |v’| = e|v| \]
    • 弾性衝突 (e=1) ならば、\(|v’|=|v|\)。速さを変えずに、そのまま跳ね返ります。
    • 非弾性衝突 (0<e<1) ならば、\(|v’|<|v|\)。跳ね返りの速さは、衝突前より遅くなります。
    • 完全非弾性衝突 (e=0) ならば、\(v’=0\)。物体は壁にくっついて、跳ね返りません。

7.3. 壁への斜め衝突

では、ボールが壁に斜めに入射角 \(\theta\) で衝突する場合はどうでしょうか。

これも、斜め衝突の基本原則に立ち返って考えます。

  1. 座標軸の設定:壁に垂直な方向をx軸(壁から離れる向きを正)、壁に平行な方向をy軸とします。
  2. 速度の分解:入射するボールの速さを \(v\) とすると、
    • x成分: \(v_x = -v\cos\theta\) (壁に向かうので負)
    • y成分: \(v_y = v\sin\theta\)
  3. 各成分の衝突後の速度:
    • y方向(壁に平行):壁との間に摩擦がなければ、この方向には力は働きません。したがって、y成分の速度は変化しません。\[ v_y’ = v_y = v\sin\theta \]
    • x方向(壁に垂直):この方向の運動は、壁との垂直衝突と見なせます。したがって、公式 \(v_x’ = -ev_x\) が適用されます。\[ v_x’ = -e(-v\cos\theta) = ev\cos\theta \]
  4. 衝突後の速度の再合成:
    • 衝突後の速さ \(v’\) は、\( v’ = \sqrt{(v_x’)^2 + (v_y’)^2} = \sqrt{(ev\cos\theta)^2 + (v\sin\theta)^2} \)\[ v’ = v \sqrt{e^2\cos^2\theta + \sin^2\theta} \]
    • 反射角 \(\phi\) は、\[ \tan\phi = \frac{v_y’}{v_x’} = \frac{v\sin\theta}{ev\cos\theta} = \frac{\tan\theta}{e} \]

弾性衝突 (e=1) の場合:

もし衝突が弾性衝突 (\(e=1\)) ならば、

  • 速さ: \(v’ = v \sqrt{\cos^2\theta + \sin^2\theta} = v\)。速さは保存される。
  • 角度: \(\tan\phi = \tan\theta \Rightarrow \phi = \theta\)。入射角と反射角は等しくなります。これは、光の反射の法則と同じ形をしています。

壁との衝突は、その単純化されたモデルを通じて、反発係数が速度の各成分にどのように作用するかを明快に示してくれます。この \(v’=-ev\) という関係は、次の繰り返しバウンドの問題を解くための、基本的な構成要素となります。


8. 床への繰り返しバウンドとエネルギー減衰

スーパーボールを床に落とすと、何度もバウンドを繰り返しながら、その跳ね上がる高さが徐々に低くなっていき、やがて止まります。この一連の運動は、反発係数エネルギー保存則を組み合わせることで、見事に数学的に記述することができます。

一回のバウンドごとに、床との非弾性衝突によって力学的エネルギーが少しずつ失われていく(減衰していく)様子を、定量的に追跡してみましょう。

8.1. 一回のバウンドにおける高さとエネルギーの変化

状況: 質量 \(m\) のボールを、高さ \(h_0\) の位置から静かに自由落下させた。床とボールの間の反発係数を \(e\) とする。

  1. 1回目の衝突直前の速さ (\(v_0\)):高さ \(h_0\) からの自由落下なので、力学的エネルギー保存則(あるいは公式 \(v^2=2gy\))より、床に到達する直前の速さ \(v_0\) は、\[ v_0 = \sqrt{2gh_0} \]
  2. 1回目の衝突直後の速さ (\(v_1\)):床との衝突は、壁との垂直衝突と見なせます。したがって、跳ね返った直後の速さ \(v_1\) は、衝突直前の速さ \(v_0\) の \(e\) 倍になります。\[ v_1 = ev_0 = e\sqrt{2gh_0} \]
  3. 1回目のバウンドで到達する最高点の高さ (\(h_1\)):速さ \(v_1\) で鉛直上向きに飛び出したボールが到達する最高点の高さ \(h_1\) は、再び力学的エネルギー保存則(あるいは公式 \(v^2=2gy\))から求められます。\( \frac{1}{2}mv_1^2 = mgh_1 \quad \Rightarrow \quad h_1 = \frac{v_1^2}{2g} \)ここに、\(v_1 = ev_0\) を代入すると、\( h_1 = \frac{(ev_0)^2}{2g} = e^2 \frac{v_0^2}{2g} \)さらに、\(v_0^2 = 2gh_0\) の関係を使うと、\[ h_1 = e^2 \frac{2gh_0}{2g} = e^2 h_0 \]

この結果は、**「跳ね返る高さは、前の高さの \(e^2\) 倍になる」**という、非常に重要な関係を示しています。


8.2. 繰り返しバウンドの数列的記述

この \(h_{new} = e^2 h_{old}\) という関係は、バウンドのたびに繰り返し適用されます。

  • 最初の高さ: \(h_0\)
  • 1回目のバウンド後の高さ: \(h_1 = e^2 h_0\)
  • 2回目のバウンド後の高さ: \(h_2 = e^2 h_1 = e^2 (e^2 h_0) = (e^2)^2 h_0 = e^4 h_0\)
  • 3回目のバウンド後の高さ: \(h_3 = e^2 h_2 = e^2 (e^4 h_0) = (e^2)^3 h_0 = e^6 h_0\)

これを一般化すると、n回目のバウンドの後に到達する最高点の高さ \(h_n\) は、

\[ h_n = (e^2)^n h_0 = e^{2n} h_0 \]

となり、高さが公比 \(e^2\) の等比数列をなして減少していくことがわかります。


8.3. エネルギー減衰のプロセス

この高さの減少は、力学的エネルギーの減少と直接結びついています。

各バウンドの最高点では、速さはゼロなので、力学的エネルギーは位置エネルギー \(mgh\) に等しくなります。

  • バウンド前のエネルギー(高さ \(h_{n-1}\)): \(E_{n-1} = mgh_{n-1}\)
  • バウンド後のエネルギー(高さ \(h_n\)): \(E_n = mgh_n = mg(e^2 h_{n-1}) = e^2 (mgh_{n-1}) = e^2 E_{n-1}\)

バウンドごとのエネルギー減衰率

\[ \frac{E_n}{E_{n-1}} = e^2 \]

これは、一回のバウンドごとに、力学的エネルギーが \(e^2\) の割合で失われることを意味します。

例えば、反発係数が \(e=0.9\) のボールの場合、1回のバウンドで失われるエネルギーは、

\( \Delta E_{loss} = E_{before} – E_{after} = E_{before} – e^2 E_{before} = (1-e^2)E_{before} \)

\( = (1 – 0.9^2)E_{before} = (1 – 0.81)E_{before} = 0.19 E_{before} \)

となり、力学的エネルギーの19%が熱や音に変換されることがわかります。


8.4. (発展)静止するまでの総時間

ボールが完全に静止するまでに要する総時間 \(T_{total}\) を計算することもできます。

  1. 最初の落下時間 \(t_0\): \(h_0 = \frac{1}{2}gt_0^2 \Rightarrow t_0 = \sqrt{\frac{2h_0}{g}}\)
  2. 1回目のバウンドの時間(上昇+下降)\(t_1\):跳ね返りの初速は \(v_1 = ev_0 = e\sqrt{2gh_0}\)。最高点までの時間は \(v_1/g\)。往復で \(2v_1/g\)。\(t_1 = \frac{2e\sqrt{2gh_0}}{g} = 2e\sqrt{\frac{2h_0}{g}} = 2et_0\)
  3. 2回目のバウンドの時間 \(t_2\):同様に、\(v_2=ev_1=e^2v_0\) なので、\(t_2 = 2v_2/g = 2e^2t_0\)
  4. 総時間 \(T_{total}\) は、これらの無限等比級数の和になります。\( T_{total} = t_0 + t_1 + t_2 + \dots = t_0 + 2et_0 + 2e^2t_0 + \dots \)\( T_{total} = t_0 \left[ 1 + 2(e + e^2 + e^3 + \dots) \right] \)括弧の中の級数の和は、\(\frac{e}{1-e}\) なので、\( T_{total} = t_0 \left( 1 + \frac{2e}{1-e} \right) = t_0 \left( \frac{1-e+2e}{1-e} \right) = t_0 \frac{1+e}{1-e} \)\[ T_{total} = \sqrt{\frac{2h_0}{g}} \left( \frac{1+e}{1-e} \right) \]

この分析は、反発係数という一つのパラメータが、運動の幾何学(高さ)だけでなく、時間的な側面やエネルギーの散逸まで、いかに豊かに記述するかを示す美しい例です。


9. 衝突における運動量保存則と反発係数の連立

このモジュールを通じて、私たちは衝突問題を解くための二つの主要な法則を学びました。

  1. 運動量保存則
  2. 反発係数の式

このセクションでは、これら二つの法則が、衝突現象を記述する上でどのような役割を担っているのか、その物理的な意味合いを再確認し、両者を連立させて解を導くというアプローチの論理的な構造を、より深く理解します。二体衝突の問題は、本質的に、この二つの法則の連立方程式を解くことに帰着するのです。

9.1. 二つの法則の役割分担

運動量保存則と反発係数の式は、互いに独立した、異なる物理的側面を記述しています。

法則A:運動量保存則 – 「系の法則」

\[ m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1′ + m_2 v_2′ \]

  • 物理的根拠: ニュートンの第三法則(作用・反作用の法則)
  • 記述する側面: 衝突中に働く内力が、作用・反作用のペアとして互いに打ち消し合うため、系全体としての運動の総量(運動量)は、外部からの影響がない限り不変である、という**「系の普遍的な振る舞い」**を記述します。
  • 役割: 衝突の種類(弾性か非弾性か)によらず、あらゆる相互作用に共通する、普遍的な制約条件を与えます。これは、衝突現象における**「グローバルなルール」**と言えます。

法則B:反発係数の式 – 「物性の法則」

\[ v_1′ – v_2′ = -e(v_1 – v_2) \]

  • 物理的根拠実験則 (Empirical Law)
  • 記述する側面: 衝突する物体そのものの材質や形状といった、**「物質の固有の性質(物性)」**が、跳ね返りの挙動をどのように決定するかを記述します。反発係数 \(e\) は、衝突の際に、運動エネルギーがどれだけ効率的に保存されるかを示す、物質固有のパラメータです。
  • 役割: 衝突の具体的な「シナリオ」を決定します。\(e=1\) ならばエネルギーが保存される理想的なシナリオ、\(e=0\) ならば合体してエネルギーが最大限失われるシナリオ、といった具体的な条件を設定します。これは、衝突現象における**「ローカルなルール」**と言えます。

9.2. なぜ二つの式が必要なのか?

一次元の二体衝突において、求めたい未知数は、通常、衝突後の速度 \(v_1’\) と \(v_2’\) の二つです。

数学の基本原理によれば、二つの独立した未知数を決定するためには、二つの独立した方程式が必要です。

運動量保存則は、そのうちの一つの方程式を提供してくれます。しかし、それだけでは解は一意に定まりません(解の組み合わせは無限に存在します)。

そこに、反発係数の式という、全く異なる物理的根拠を持つ、もう一つの独立した方程式が加わることで、初めて連立方程式の解がただ一つに定まり、衝突後の運動が完全に予測可能になるのです。

衝突問題の解決 = 物理法則の連立方程式

したがって、衝突問題を解くという行為は、

「普遍的な系の法則(運動量保存則)」と「具体的な物性の法則(反発係数)」という、二つの物理法則を数学の言葉(方程式)に翻訳し、その連立方程式を解くこと

に他なりません。


9.3. 連立による一般解の導出

この二つの方程式を、未知数 \(v_1′, v_2’\) について、一般的に解いてみましょう。

  1. \(m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1′ + m_2 v_2′ \quad \cdots ①\)
  2. \(v_2′ = v_1′ + e(v_1 – v_2) \quad \cdots ②’\) (②を変形)

②’を①に代入して \(v_2’\) を消去します。

\( m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1′ + m_2 {v_1′ + e(v_1 – v_2)} \)

\( m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1′ + m_2 v_1′ + m_2 e(v_1 – v_2) \)

\( v_1’\) を含む項をまとめ、整理すると、

\[ v_1′ = \frac{(m_1 – em_2)v_1 + m_2(1+e)v_2}{m_1 + m_2} \]

同様に、\(v_2’\) についても解くことができます。

\[ v_2′ = \frac{m_1(1+e)v_1 + (m_2 – em_1)v_2}{m_1 + m_2} \]

これらの一般解を覚える必要は全くありません。重要なのは、**「運動量保存則と反発係数の式を立てれば、必ず解ける」**という、その構造とプロセスを理解することです。どのような数値が与えられても、常にこの基本に立ち返ることが、衝突問題を攻略する最も確実な道筋です。


10. 反発係数から見たエネルギー損失率の計算

反発係数 \(e\) が、衝突における「弾力性」の指標であることは、直感的に理解できます。\(e=1\) ならエネルギー損失はゼロ、\(e=0\) なら損失は最大。では、この \(e\) の値と、失われる運動エネルギーの量との間には、どのような定量的な関係があるのでしょうか。

このセクションでは、衝突によって失われる運動エネルギーの**割合(損失率)**を、反発係数 \(e\) を用いて一般的に表現することを試みます。これにより、\(e\) という実験的なパラメータが、エネルギーという基本的な物理量と、いかに深く結びついているかを見ることができます。

10.1. エネルギー損失の定義

衝突によって失われた運動エネルギー \(\Delta K_{loss}\) は、

\[ \Delta K_{loss} = K_i – K_f \]

で定義されます。

そして、初期の運動エネルギーに対する、損失の割合、すなわちエネルギー損失率は、

\[ \text{損失率} = \frac{\Delta K_{loss}}{K_i} = \frac{K_i – K_f}{K_i} = 1 – \frac{K_f}{K_i} \]

で与えられます。


10.2. 損失率と反発係数の関係

この損失率を \(e\) の関数として導出するのは、一般的には非常に複雑な代数計算を伴います。しかし、いくつかの特別な、しかし重要なケースについて分析することで、その本質的な関係を明らかにすることができます。

ケース1:壁との衝突

ボールが速さ \(v\) で壁に垂直に衝突する場合を考えます。

  • 初期運動エネルギー: \(K_i = \frac{1}{2}mv^2\)
  • 衝突後の速さは \(v’ = ev\) なので、
  • 終状態運動エネルギー: \(K_f = \frac{1}{2}m(ev)^2 = e^2 \left( \frac{1}{2}mv^2 \right) = e^2 K_i\)
  • エネルギーの比:\[ \frac{K_f}{K_i} = e^2 \]
  • エネルギー損失率:\[ \text{損失率} = 1 – \frac{K_f}{K_i} = 1 – e^2 \]

この結果は非常に明快です。壁との衝突において、失われる運動エネルギーの割合は \(1-e^2\) に等しい

  • 弾性衝突 (e=1) ならば、損失率は \(1-1^2 = 0\)。エネルギーは失われない。
  • 完全非弾性衝突 (e=0) ならば、損失率は \(1-0^2 = 1\)(100%)。すべての運動エネルギーが失われる。
  • 非弾性衝突 (e=0.7) ならば、損失率は \(1-0.7^2 = 1-0.49 = 0.51\)(51%)。

ケース2:二体衝突(より一般的な関係)

二つの物体が衝突する場合、エネルギー損失率は、反発係数 \(e\) だけでなく、二つの物体の質量比にも依存するため、関係はより複雑になります。

しかし、ここでも、失われるエネルギーの量は、\((1-e^2)\) という因子に比例するという、基本的な構造は変わりません。

失われるエネルギーは、衝突前の相対運動のエネルギーの一部です。そのうち、どれだけの割合が熱や変形に変わるかが、\(1-e^2\) という項で決まるのです。

衝突前の相対速度を \(v_{rel} = v_1 – v_2\) とすると、失われるエネルギーは、

\[ \Delta K_{loss} = \frac{1}{2} \mu v_{rel}^2 (1-e^2) \]

という形で一般的に表現できます。ここで、\(\mu = \frac{m_1 m_2}{m_1 + m_2}\) は、換算質量と呼ばれる量です。

この式の導出は大学レベルの計算を要しますが、その結論が示す物理的な意味は重要です。

「衝突によるエネルギー損失は、相対運動のエネルギーに、\((1-e^2)\) という因子を掛けたものに比例する」


10.3. 結論:反発係数のエネルギー的意味

これらの分析から、反発係数 \(e\) が、単なる「跳ね返りの良さ」を示す経験的な指標に留まらず、衝突におけるエネルギー散逸の度合いを直接的に決定する、極めて重要な物理的パラメータであることがわかります。

\(e\) の値を測定することは、その衝突がいかに理想的な弾性衝突からかけ離れているか、そして、どれだけの力学的エネルギーが、熱という無秩序なエネルギーに変換されてしまったかを、定量的に教えてくれるのです。

反発係数 \(e\) は、運動量保存というマクロな系の法則と、エネルギー散逸というミクロな物理過程とを結びつける、重要な架け橋の役割を果たしていると言えるでしょう。


Module 7:衝突と反発係数の総括:衝突現象を完全解明する二つの鍵

本モジュールにおいて、私たちは運動量保存則だけでは解き明かせなかった衝突現象の深部へと、反発係数という新たな鍵を用いて分け入ってきました。これにより、衝突という、力学における最もダイナミックで重要な相互作用の一つを、完全に予測し、記述するための理論体系を完成させることができました。

まず、私たちは衝突の「弾力性」を定量化する指標として、反発係数 \(e\) を相対速度の比として定義しました。この一つの数値が、衝突を弾性衝突 (\(e=1\))非弾性衝突 (\(0<e<1\))、そして物体が合体する完全非弾性衝突 (\(e=0\)) へと、その性質に応じて鮮やかに分類することを見ました。

特に、\(e=1\) の弾性衝突が、系の力学的エネルギーが完全に保存される理想的な衝突と数学的に等価であることを証明し、その理想的な極限を理解しました。対極にある \(e=0\) の完全非弾性衝突では、物体が合体し、運動量保存則の制約下でエネルギー損失が最大になること、そしてその中間にある無数の非弾性衝突では、エネルギーが熱や音へと散逸していく、より現実的な姿を分析しました。

そして、本モジュールの核心として、あらゆる一次元二体衝突問題が、

  1. 系の普遍法則である「運動量保存則」
  2. 物質の固有の性質を記述する「反発係数の式」という、二つの独立した方程式を連立させることで、体系的に解けることを示すマスターアルゴリズムを確立しました。このアルゴリズムは、複雑な衝突現象を、再現可能で論理的な手順へと分解する、強力な思考の羅針盤です。

さらに、その応用として、斜め衝突では、速度を衝突の中心線方向と接線方向に分解し、反発係数が中心線方向にのみ作用するという原則を学びました。また、壁との衝突を質量が無限大の物体との衝突と見なすことで、\(v’=-ev\) という極めてシンプルな関係を導き、繰り返しバウンドするボールのエネルギーが \(e^2\) の公比で減衰していく様を定量的に追跡しました。最後に、反発係数がエネルギー損失率と \(1-e^2\) という形で直接結びついていることを見出し、その物理的な意味をより深く理解しました。

運動量保存則という第一の鍵が、衝突の門を開けるためのものであったとすれば、反発係数という第二の鍵は、その門の先にある、弾性、非弾性という様々な部屋の扉を開け、その内部のエネルギー状態を完全に明らかにするためのものでした。この二つの鍵を手に、あなたは今、衝突という現象に対して、完全な理解と予測能力を手に入れたのです。


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