2021年度から2年間の時を経て、今年度の共通テストを解いてみたのだが、正直驚いている。大学入試センターの作成ということで、本文は依然として簡単な英文であるが、推測問題やNOT 問題が多いこと、選択肢が基本的に言い換えられており、やや解釈が必要が必要になることである。そういう意味で、本文と選択肢の文意には乖離が生じており、積極的に選びにくくなっている。消去法で考えれば解けなくはない程度であるが、制限時間まで考慮すると非常に難しい。
今回の、試験を受けて、今後の大学入試が大きく変わっていくのではないかと考えた。今ままでのものとは明らかに性格が異なっているからである。
今までのセンター試験を中心とした2022年度までの共通テストでは、誰でも学習さえしていれば70程度は得点できるように設計され、満点も可能であると考えている。確か、平均点の目標は60%だったように記憶している。この形式は、いわゆる定期テストと似たような性格をもち、選抜試験というよりは、確認テストの意味合いが強い。簡単な問題から標準の問題までを中心に扱い、数問程度の難しい問題を配置することになる。となれば、全体の難易度としては自ずと下がり、誰でもある程度の得点が可能である一方で、難関大学志望者は高得点が絶対条件となる。
今回の共通テストでは、文章こそ簡単であれど、文意解釈や同義表現について考えると、標準的とは言い難い。私立大学の基準で考えるならば、まともに出題する大学は早慶くらいなものである。学部や試験方式によっては課されているのかもしれないが、MARCHや関関同立では、そこまで多く課されることはない。こうした点で、同義表現の検討や選択肢と本文の乖離に慣れておく必要がある。おそらく、前者については英英辞書(ODEなど)、後者については過去問研究と気合・勘、が推奨されるのであろうが、厳しいだろう。この手の問題は、個別性の高さゆえに必勝法は存在せず、密度の濃い学習を長時間積むことによってでしか感覚を養うことはできない。
概観
基本的には、難しくなった、ということであるが、その影響は幅広い。第一に国公立大学の一次試験として、第二に私立大学の共通テスト利用として、そして近年のトレンドである私立大学における一般入試の科目利用として、という具合である。もっとも英語に関しては、入試方式によってTOEIC等の資格試験を利用することができるので、共通テストに拘る必要はない。
そして、注目したいのが環境の変化である。センター試験時代を考えると、基本的には全ての大学進学希望者が受けるものであった。また、試験自体の独自性も高くないため、学習を進める上での通過点に位置付けるなど、練習問題としての側面もあったように思う。一方で、共通テストを考えると、共通テストを大学入試で利用する受験生が中心に受験するものである。ただし、昔ながらの名残で地方の偏差値65以下の受験校は、受験を強制しているかもしれない。とは言え、国公立と難関私立の志望者に限られる。前者は一次試験として、後者は科目利用として、である。私立に関しては難関私立(概ね偏差値60以上)でないと、共通テストの方が難しくなってしまい、得点は難しくなる。ただし、そもそも、共通テストと私立大学の両方の対策をすることは時間的に難しい。
以上の観点から、個人的には、高3・高卒を対象とする第3回河合塾全統記述模試で偏差値55以上の学生、が受験者の中心となっている(これからなる)と考えている。しかし、一方で、共通テストは平均点を50%程度にすることを目標とするようなので、これを実現しようとすると、難易度は非常に高くなってしまう。
展開:決断の重要性
共通テストの出題内容と今後の予測について考えると、非常に独自性が高く、かつ難易度が高い、ことが分かる。そのため、特段に高い学力を保有する一部の受験生を除けば、共通テストのためだけに相当の時間を割かなければいけなくなってしまう。ここで注目したいのは費用対効果(いわゆる、タイム・パフォーマンス)である。
国立志望者は全員が受けるから除外する、ということはしない。大事なのは目標点の設定である。これは意図的に回答を見送る判断を試験中に行う、決断が重要となる。共通テストの、難しい、は単に難しいのはなく、推測問題の性質上、解けないレベルで難しい場合がある。こうした問題に時間を割くと、試験全体の得点は自ずと下がってしまうことになる。全ての問題に目を通し全ての問題を解く、満点を前提として間違えた問題が得点から引かれるという考え方は消したほうがいい。捨て問を素早く判断し、高い正答率で得点する戦略を実行する決断が重要である。個人的には今回(2024年度)の英語は90点を満点として、従来の目標点のマイナス5点程度を目標にすれば良いと考える。
私立志願者は受けるかという、という決断が重要となる。前項と重なるが、費用対効果を考えると志望校によっては、共通テストを受けること自体が、合格の足をひっ張る形になることになる。志望校によっては、私立大学の対策と共通テストの対策の2つを両方を行うことは難しい。この時、最も障害になるのは学校の方針である。学校の学習に対する強制力は今もなお強い。共通テストの受験の可否以外にも、例えば、模試の受験というものがある。仮に、進研模試と河合塾主催の模試を記述式とマーク式の両方を受けようとすると、高3年の一学期は月に3つは受験することになる。そして、模試の復習が宿題として課される。正直、自由に学習時間を確保することは難しい。こうした状況を打開するために、推薦系の入試を捨てるのであれば、学校側の心象を犠牲にしても、志望校に向けた選択をとらなければならない。一般入試の場合、卒業さえできれば問題ない。実際、早稲田大学の募集要項には「試験によって合否を判定する」という旨の記載がある。
このように、国公立・私立、どちらを志望するにしても、自らが目的意識を以って決断する力が一層求められるようになると思う。こうした戦略面は都市部と地方とで情報格差が大きく生じており、この辺りの選択によって有利・不利が生じてくるように思う。
おわりに
共通テストの難化は、決断の重要性、が高まるものと考えた。跳ね上がる難易度、多様化する私立の入試方式に学校が対応するのが難しいと考えるためである。数十年前までは、学校が受験対策の中心を担い、実際に合格まで導いてきた。しかし、ここ十数年では公立高校が変化に対応できていないことは、公立高校と私立高校の合格実績を見れば明らかである。こうした問題を認識し、解決に取り組み、合格実績を上げた公立高校も存在するが、極めて稀な例である。
何にせよ、最終的な判断を自分で行う、ということを強く勧める。なぜならば、不本意な結果になった時に、その結果に責任を持つのをは自分自身なのだから。